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涼宮ハルヒのデリート 誤解なんてちょっとした出来事である。 まさかそんなことで自分が消えるなんて夢にも思わなかっただろう。 キョン「あと三日か・・・。」 キョンつまり俺は今、ベッドの上で身を伏せながらつぶやいた。今を生きることで精一杯である。 なぜ今俺がこんなことをしているのかというと、四日前に遡ることになる。 ハルヒ「キョンのやつ何時まで、団長様を待たせる気なのかしら?」 いつもの集合場所にいつもと変わらない様子で待っているメンバーたち。 団長の話を聞いた古泉が携帯のサブディスプレイをみる。 古泉「まだ時間まで五分あります。」 と、団長に伝える。 ハルヒ「おごりの別に、罰でも考えておこうかしら。」 っと言ってSOS団のメンバーは黙り込んだ。誰一人として口を開こうとしない。その沈黙を破ったのは、ベタな携帯の着信音だった。 ハルヒ「あとどれぐらいで着くの?団長を待たせたんだから・・・」 っと言われ「一方的に電話をきった。ベタな展開だったら俺が切るのだが、なにしろ相手があのハルヒだから仕方がない。 かわりに古泉に電話をかけた。 古泉「僕に電話とは、あなたも罪な人ですね。涼宮さんが嫉妬しますよ。」 ウザイ、何勘違いしてんだこのホモ男。 古泉「冗談です。僕に電話をかけたぐらいですから、何か理由があるのでしょう?」 やっぱりコイツと話すのは少し気が引けるな。 キョン「今日は、急用があるから探索にはいけないとハルヒに伝えてくれ。」 古泉「その用とは?何の事ですか?」 キョン「どうしても言わなくてはいけないのか?」 古泉「・・・。まあ別にいいでしょう。あなたの休日まで追及はしません。」 キョン「じゃ、頼むぜ。」 電話のやり取りを終えた古泉はハルヒに用を伝えた。 ハルヒ「仕方がないわね。じゃあ、今日は二人のペアで北と、南に分かれて不思議を探しましょう。」 ~ハルヒ視点~ ハルヒとペアになった、いやなってしまった朝比奈さんは午前中ずっとハルヒの不機嫌オーラを感じ、おびえながらハルヒの後についていったそうだ。 午前中の散策が終わりいつもの場所へ向かう途中朝比奈さんがあるものを発見してしまった。 みくる「あれって、キョンくんじゃないですか~~?」 ハルヒは朝比奈さんの指す方向に素早く振り向いた。 ハルヒ「散策をサボっておいて、何をやってんのかしら?」 しばらくハルヒが何かを考えていると思うと、頭の上の電球が光った。 ハルヒ「キョンを尾行するわよ、みくるちゃん。キョンの休んだ理由がわかるし、不思議なところへいけるかも知れないし。」 みくる「で、でも~~、長門さんと、古泉くんのことはどうするんですか~~?」 ハルヒ「そんなの後で電話しておけばいいじゃない。」 っと言って、彼の尾行を始めた。何度かみくるちゃんから「やめましょうよ~~。」っと言われたがすべて無視した。 彼の行き先はいつもの駅から一駅離れたところだった。 ハルヒ「なんでわざわざこんなところにくるのかしら・・・。」 みくる「やっぱり、やめませんか~?キョンくんには彼なりの事情があると・・・。」 言いかけていた彼女の口をふさいだのは、ハルヒの手だった。 みくる「何するんですか~?」 ハルヒ「誰かに手を振っているわ。ここからじゃよく見えないから別の場所へ移動しましょう。」 っといってハルヒは朝比奈みくるの手をとり移動した。 みくる「あれって、女の人じゃないですか~?」 ハルヒの目に移ったのは、キョンが親しげにその女性と話しているところだった。 そして、気づいたらそこから走って逃げ出しているところだった。 走るのをやめて歩いていると、後からみくるちゃんが追いついてきた。 みくる「きっと彼女じゃないと、思いますよ・・・。」 ハルヒ「あったりまえじゃない、あのキョンに彼女ができるわけないじゃない。ただ少し暗くなってきたから早く帰りたいなと思って・・・。」 わかりやすい嘘をついてしまったと思い、すこし悔しがった。駅あたりで二人が別れた。 ハルヒの後姿はどこか悲しげな表情にみえたそうだ。 ~キョン視点~ 妹のダイブによって起こされた俺は、いつもの強制ハイキングコースを心行くまで楽しんでいた。 学校にいく間、谷口のナンパ話を聞かされた。まったく飽きないやつだ。 谷口「でだな、やっぱりゲーセンのやつらを狙うのはよくなくてでなあ・・・。」 キョン「お前のそのナンパ話はこうで96回目だ。」 っと口を挟む。まったく朝から暑苦しいやつだ。熱心に語ってきやがる。 谷口「そういや、お前なんで土曜日の探索に行かなかったんだ?」 キョン「・・・。なんで、お前が知ってる?」 谷口「ギクッ!!!忘れてくれ・・・。」 そんな話をしているとすぐに学校に着いた。靴を履き替え教室に向かうと、何から話そうか考えた。誰にって、そりゃハルヒにきまってんだろ? 絶対追求してくるに違いない。 しかし、予想に反してハルヒは何を言ってこなかった。それどころか、教室に入ってきた俺をまるで何もいないかのような反応を見せた。 キョン「ど、土曜はすまなかったな。急に休んだりなんかして・・・。」 しかし、ハルヒは何の反応もしない。気まずい、ククラス全体が注目してる。 キョン「休んだ事を怒ってんのか?」 ハルヒ「・・・・・・。」 無反応のハルヒに気まずさを感じていたら、チャイムがなりホームルームが始まった。 まったく、休んだぐらいでそんなに怒るかよ・・・。 結局午前中はハルヒと何も話さず、不機嫌オーラを受け続けていた。 昼休みは教室を抜け出しどこかへいってしまった。 谷口「お前、涼宮になんかしたか?」 キョン「いや、何もしていない。何で怒っているか知りたいぐらいだ。」 本当に何を怒っているんだろうな、ハルヒのやつ。 そして授業の終わりに二人のムードに耐え切れなくなった谷口が、あろうことかハルヒに話しかけてしまった。 ハルヒ「何よ谷口。あんた宇宙人でも見たの?」 じとっとした目で、谷口を睨む。 谷口「キョンと喧嘩するのはいいが、クラスのムードまで暗くするな!」 っと強気で言った。ああ、谷口、お前死んだな。相手を考えろ、相手を。 しかし返ってきた返答は、最悪なものだった。 ハルヒ「キョンって、誰?」 教室が完全に凍りついた。その中を凍らせた原因のハルヒが通りすぎていった。 マジかよ? なにかあったかも知れんと思い、逸早く部室へ向かった。 キョン「長門!これは一体どういうことなんだ?」 俺は部室の隅で静かに本を読むインターフェイスに問いだした。しかしまた返って来た返答は最悪だった。 長門「あなたが悪い。」 ・・・・。俺は言葉を失った。一体何をしたんだというのか。あの長門からこの言葉を言われると正直つらい。 すると後ろから古泉が入ってきた。 キョン「お前ならわかるか?俺がハルヒから無視されている理由。」 よく考えてみれば、長門がああ言っているのだから古泉に聞いても仕方がなかった。 ふわりと自分の体が倒れるのを感じ、殴られたとわかった。我ながら格好悪い。 古泉「あなたがそんな人だったとは、失望しました。涼宮さんが無視するのもよくわかります。」 一体どういうことだ。何が起こっている?これもまた異世界なのか? とりあえずこの日は家に帰った。あんなことを言われてあの場にいれるほど、俺も狂っちゃいない。 一体何が悪いのか考えているうちに眠りに入った。 朝だ・・・。妹のプレスを食らう前に起きた。とりあえず再びハルヒに誤っておこうと思い学校へ向かった。 向かう途中ずっと考えていた。そもそも俺をいないものだと言うほど嫌っているのに、どうやって誤ればいいのか。 それに理由もわかっていない。・・・そうだ、朝比奈さんに聞こう。 昼放課に朝比奈さんを呼び出した。 キョン「あの、俺って何かハルヒに悪い事いしましたか?」 真剣な口調で話す。彼女なら何か知っているのだろうか? その言葉に驚いたような様子をみせ、真剣な顔つきで話始めた。 みくる「あの、始めに言っておきます・・・。」 キョン「はい?」 みくる「ごめんなさい。」 パ~ンという音が響いた。そう、ビンタされた。そして朝比奈さんはどこかへいってしまった。 あの、朝比奈さんに殴られたのは相当ショックだった。 結局午後の授業にはでずに欠席した。この日は何もかもにやる気がでず。ベットで眠ることにした。 朝、自分の体の異変に気づいた。 -あと3日で自分は消える 何でわかるかって?分かってしまうからしょうがない。これしかないな。 今の状況に絶望した自分は学校を休んだ。だってあと三日で死ぬとわかっていて何をすればいいかなんかわからん。 夕方、古泉が家を訪ねてきた。しぶしぶ話を聞くことにする。 古泉「いい加減にしてください。とにかく明日、涼宮さんに謝る事です。何度閉鎖空間を潰したことか・・・」 キョン「・・・。俺が何をしたっていうんだ?」 古泉「とぼける気ですね。まあ、いいでしょう、言ってさしあげますよ。先週の散策あなたは休んだ。そしてわざわざ僕たちから離れるようにして彼女に会った。それに対して涼宮さんは失望しているのですよ。」 キョン「待て!それは・・・。」 古泉「ともかく、明日は学校に来て謝ってください。それで済むことですから。」 俺は終始まともな話ができず、家に戻った。 「あと三日か。なんとしてでも・・・」 彼女に会っただと。とんだ誤解だ! 次の日は一日中ハルヒにかけた。全て無視されて、だんだん自分が消えていくのを感じ、孤独感に襲われた。 手紙をつかってみたりもしたが、やはり無視された。 ・・・。一体全体どうなっているんだ? 帰り際、しかたなく古泉と少し話をすることにした。 キョン「全て無視されている。もう俺が消えたみたいに。」 古泉「どういうことです?もう、とは?」 キョン「古泉、俺はあと二日、いや明日いっぱいまでしか生きられない。」 古泉「・・・。なんで分かるのですか?」 キョン「分かってしまうのだからしょうがない。っということだ。」 古泉「・・・なるほど、どうですか。僕の憶測ですが・・・、土曜にあなたが彼女にあったことが原因でしょう。」 キョン「そのことなんだがな・・。実はそれお袋なんだ。俺の。」 古泉「!?・・・それが本当ならものすごい間違いですね・・。」 キョン「まあ、俺の親は若いときに俺を生んだからな。」 古泉「で、その誤解により、あなたに失望し悲しんだ。あなたがいなければ悲しまなかったのに、とでも考えたのでしょう。」 キョン「だったら、すでに消えているべきじゃないのか?」 古泉「そうですね、あなたに謝ってほしかったのではないんですか?」 キョン「・・・(違うだろ)。まあそんなことよりこれからどうするかだな。」 古泉「そうですね。今のままでは、この世界にも失望して改変されかねませんからね。」 キョン「しかし、俺の書いたものまで目にはいらないとなると、どうすればいいんだ?」 古泉「分かりません。でも、あなたのやる事を信じたいと思います。」 いつまでも本当にクサいやつだな。しかも顔が近い、キモイ。どけろ 古泉「僕にできることがあれば、何でも協力しますよ、親友として。」 キョン「わかった。」 っといって別れたのはいいがさっぱりどうしたらいいのかわからん。 このままでは、本当に消えてしまう。何かいい方法はないのか? 長門に頼るか?いや、今回は自分で考えるべきか? 人間はこういう大事な日に限ってすぐに寝てしまうものだ。 次の日結局何も浮かばず、半日をすごしてしまう。 今いるのは部室だ。ここでなんとかしなければ、消えてしまう。 ふいに長門が何か語ってきた。 長門「あなたはもう答えを知っているはず。答えは過去にあり、現在に関係する。」 そのことを信じていいんだな、長門。・・・。 最後になるかもしれない部活は、ハルヒに俺が認識されないまま終わった。 帰り際、あるひとつの答えにいきついた。唯一の接触できるチャンス、そして最後の切り札。 キョン「古泉、親友としてのお前にひとつ頼みがある。」 古泉「なんでしょう?できる限りのことをいたしますよ。」 キョン「それはだなぁ、夜に東中にきてくれと手紙にかき、渡しといてくれ。」 古泉「なんのことだか、分かりませんが、それが望みならやっときます。」 そう答えは今日という日つまり七夕。答えは三年前。 東中に着くとハルヒをベンチで待つ。懐かしいな、この場所。丁度暗く顔をしっかりと見えない。 しばらくするとフェンスを乗り越え、ハルヒがやってきた。 ハルヒ「やっぱり、ジョン・スミスだったのね。」 そう、最後の切り札はこれだ。そして予想どうり接触することができた。 ジョン「どうだ、高校は?」 するとハルヒ今までの活動を話始めた。 ハルヒ「やっぱり、宇宙人はみあたらないわね。でも、SOS団っていうね・・・。」 俺も、(俺は話から消えていたが)今までの活動を思い出していた。 ハルヒ「ジョン泣いているの?」 俺の顔には涙が流れていたらしい。あと十五分の命だ。 ハルヒ「私何か大事なことを忘れている気がする。」 ふいにハルヒが言ってきた。思い出してもらうチャンスかもしれない。 ジョン「今からいうことを真剣に聞いてくれ。」 ハルヒはキョトンとした顔だったが、気にせず話をつづける。 キョン「昔、キョンと呼ばれていた男がいた。彼は普通の人生に飽きていた。そこに自分と同じ考えの女の子が現れた。 彼女は不思議を追い求めて彼を振り回した。しかし彼はそれを迷惑と思わず、むしろ自分の人生が楽しくなるのを感じた。・・・」 もう涙が止まることはない。 ジョン「しかし、ちょっとした誤解で二人はもう二度と会わなくなってしまった。」 ハルヒ「それがジョンあなたなの?」 ジョン「ああ、SOS団か・・・楽しかったな。」 嘘と真実がまざりメチャクチャになってきた。 ハルヒ「わたしが忘れていることって、まさか?」 ばらばらだったピースが合わさった。しかしもう時間がない。 ハルヒ「女の子はわたしなのね。」 キョン「ああ、誤解が解けないのが残念だったな。」 ハルヒ「・・・。」 キョン「ハルヒ、約束してくれ。俺がいなくてもこの世界に失望しないことを。」 ハルヒ「・・・、わかった。って、何その死ぬ前みたいな言葉。それに体が・・・」 体が消えてきた。くそ!時間がない。 キョン「じゃあな、ハルヒ。消える前にお前のポニーテールが見たかった・・・。」 こうして俺、キョンはこの世界から消えていった。 思えば、普通の高校生として生きていくよりはよかったんじゃないのかと、思えた。 その後ハルヒは古泉から誤解について説明された。 俺が消えた世界では、俺の体は残っていないので失踪っということになっている。 妹よ、兄が消えた事に悲しんでいるか? 世界が改変されることが起こらず、いやそれどころか閉鎖空間すら発生しなかったそうだ。 SOS団は今も健在しており、ポニーテールの団長様はなんとかやっているようだ。 ハルヒ「・・・。あれから一ヶ月ね。本当にどこへいったのかしら・・・。」 ハルヒが俺の席をみてつぶやく。 みくる「・・・・。きっと帰ってきますよ。」 ハルヒ「でも、目の前で消えていくのを見たのよ!わたしだって信じたい、帰ってくると。」 古泉「いい加減にしてください!] 急に叫んだ古泉に、二人は意表をつかれた。 古泉「そんなこといっていたら、彼が帰りづらいじゃないですか。」 部室が静まりかえった。・・・・。どういうことだ? 古泉「実はですね。先日警察に身柄を確保されましてね・・・。」 っといって、ハルヒに新聞を渡す。確かに新聞には俺の写真がうつっている。 古泉「いると信じなくては、いるものもいあくなってしまいますよ。」 するとハルヒの顔にいつもの120ワットの笑顔が戻った。 次の日、俺はベットの上で横になっていた。 なぜ俺がこの世界に戻ったのかというと簡単なハルヒの思い込みだ。 まったく便利な能力だな。まあそれのせいで、消えていたわけだが・・・。 さてまずは最初に一ヶ月の幽霊生活。これでもハルヒ話してやろうかな。
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―――― 二日目 3 ―― 「・・・。どうしてそんなにやさしいの?」 「・・・え?」 「キョンは、やさしすぎるの。わたしだけじゃない。有希にも、みくるちゃんにも、阪 中さんにだって・・・」 俺は・・・、それほどまでに優しかっただろうか。 「キョンが私に優しくしてくるれるたびにね、あたし思ったの。この人はわたしのこと を大切に思ってくれているんだって。でもね、みんなといると思い知らされるの。あぁ、 私だけじゃないんだって。キョンにとって特別なのはあたしだけじゃないんだ、ってね」 「・・・・。」 俺はハルヒの告白を黙って聞くことしかできなかった。俺はハルヒを特別だと思った ことがあっただろうか。胸に手を当てて考えてみる。 「ハルヒ、いいか?よく聞け。俺にとってお前だけが特別な存在なんだ。」 俺にとってハルヒは特別だ。その気持ちにウソはない。しかし、俺にとっての特別と はなんなんだろうか。俺はその答えを見つけられないでいた。 「あたしはね、アンタのことが特別なのよ!ううん、特別なんてものじゃない。あたし にとってはね、キョンが全部なの。」 ハルヒは俺の心を読んだかのように言った。それが・・・、答えなんだ。 「あたしは、あんたが、キョンが好k・・・・!」 俺はハルヒを抱きしめていた。無意識なんかじゃない。俺はハルヒのことを抱きしめ たくて抱きしめているんだ。特別ってこういうことだな。 「言わなくてもいい。これが俺の気持ちだ。」 「・・・・」 「好きだ・・・。ハルヒ・・・」 うわ、ハルヒの体・・・。思ったより細いな。ずっとこのままがいいな・・・。なぁ ハルヒ。 「・・・言ったわね?」 「・・・・え?」 ハルヒは俺からぱっと離れるとにやっと笑った。なんかとてもすごくいやな予感がす るんだけどな。 「今、私のこと好きって言ったわね。」 「う・・・・。言ったが・・・。それがどうかしたか?」 「私の勝ちね」 ハルヒは勝ち誇って言い放った。 「恋愛っていう病気はね、かかったものの負けなのよ?」 あぁ、すべてを今すぐ取り消したい。なんなんだろう。俺はこんな女を好きになって しまったというのか?あぁ、今すぐ首をつりたい。それにしてもこの女はこの非常事態 時に俺をはめたというのか。信じられん。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。 「ようやく見つけましたよ。無事でしたか。涼宮さん」 おい、古泉。俺の心配は無しか。 「あなたが無事なのは喜ばしいことです。あなたに死なれてしまっては涼宮さんの精神 がどうなってしまうか想像もできません。お怪我がなくて幸いです。」 当然だろうな、こいつはこういう男だ。俺の心配なんざちっともしちゃぁいねぇ。 「いえ、とても心配でしたよ。アナr」 「みんなはどうなったんだ?」 ここは遮らざるを得まい。まさかみんなの前でそれを言うとはな。それにしてもあい も変わらずトンでもねぇことをさらっと言うやつだ。残念だが俺の体はハルヒのm ・・・。何言ってんだ俺。 「何人かお怪我をされた人がいるそうですが軽傷だそうで、空港が使用可能になり次第 帰国するという話でしたよ。」 それはよかった。まぁこれもある意味で一生忘れられない修学旅行だな。それにハル ヒと・・・。 「コラ、エロキョン。ニヤつくな」 必死に笑いをこらえながら突っ込むハルヒ。ホントに心の中が読めるんじゃないのか ?コイツは。 「さぁ、お二人さん。早く帰りましょう。先生方や皆さんもお待ちですよ。」 それもそうだな。何はともあれみんなに迷惑をかけるのはいい気がしない。ホテルに 帰るとするか。 幸いにも俺たちの泊まっていたホテルはひどい被害に遭うこともなく使える部屋をか き集めることで俺たちの寝泊りするところは確保できた。市内二つの空港の被害もひど いものではなく中国から航空機が到着次第ここを出発できるらしい。少なくともそれは 明日以降になるわけだ。 やれやれ。それにしても今日は疲れたな。さすがに今日は誰も騒ぐやつはいるまい。 寝るとするか。 ―――― 二日目 Fin―― 三日目
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結局のところどうなんだ。 世界は静まったのか。春にあった佐々木の件が本当に最後なのか。 そんなもんは解らん。古泉にだって解らんのだから、スナネズミ並の思索能力しかない俺ごときに解るわけがない。 ないのだが。 世界が静かすぎるのか? 俺の胸には妙な焦燥がある。晴天の霹靂なんて恐ろしい言葉を思いついちまったが、まさか今の静かな状態が台風の目から見える青空のようなつかの間のものではないだろうな。そうであってはならん。せっかくSOS団内外にごろごろしてた問題が一段落したってのに、それは実は暴風域の中心に入っただけですよなんてのは俺が断るぜ。 特に長門には絶対休養が必要なんだ。 俺が気を遣っていることは遣っているが、そんな程度のことが長門のような宇宙存在の気休めになってくれるとは思いがたい。できることなら、一日でもいいからあいつをハルヒの監視任務から逃れられるような快適な状況を作ってあげたいんだけどな。あの読書マニアのことだからどうせ図書館に一日中いるというのがオチだろうが、長門がいいならそれで構わん。 とにかく、休養が必要なときに九曜みたいなヤツが現れて長門のライフゲージを削るようなことをされては困るのだ。この際台風の目でもいい、せめて長門が飽きるくらい存分に読書できるまで待っててくれ。それか、世界がこのまま収まってくれるのなら俺は迷わずそっちを選ぶぜ。 長門じゃなくても、朝比奈さんにしても古泉にしても、七面倒くさい設定に束縛されずに生活できるんだろうからな。 * 「七夕よっ!」 七夕である。 「願い事は考えてきたでしょうねえ?」 といって、特別何かがあったわけではない。朝比奈さんに放課後部室に残っていてくれと頼まれることもなく、全員がその日のうちにどこぞの神様に対する要望を羅列した短冊を笹の葉にひっつけることができた。 今年も去年と同様に理屈からひねり出したような屁理屈を並べ立てたメモ用紙をハルヒが団長机に立って音読し、俺たちはそれぞれ十六年後と二十五年後に叶えて欲しい願い事を短冊に書かされた。 「あたしたちは将来のことについてもっと考えるべきなのよ。こらキョン、ちゃんと聞いてるの? あんたの将来なんか特に悲惨よ。もっと将来のことを真面目に考えるなさい!」 どっかの街頭演説並に無駄な熱意を込めて喋るのはいいとして、ハルヒに我が将来を心配されるのは業腹である。高校に行ってまで謎な部活動を設立して謎な活動しかしない奴なら、人の将来でなくて自らの将来を案じるべきだ。いっそのことUMA捕獲隊にでもなって一攫千金を目指したらどうだろう。チュパカブラあたりならわりと現実味がありそうだぜ。 『地球の公転を逆回転にしてほしい』 さて、これがこのヒネクレ女の一枚目願い事である。 精神年齢を成長させるべきだ。こんな願いが万一ベガやアルタイルにでも届いちまったら腹を抱えて大笑いするだろう。そうでなくてもこんなのを笹にひっつけて現世界で衆目にさらすこと自体が恥ずかしくて見てられん。 で、もう一枚は、これは少し意外だったのだが、 『SOS団メンバー全員が二十五年後にはそれなりの生活を送れるようにしなさい』 なるものだった。 何だ、精神年齢を成長させるべきだとか言ってしまったが、もしやハルヒも内面的に成長しているのか。それに、それなりの生活とはハルヒらしからぬ文ではないか。徹底主義者のこいつなら大富豪とか社長とか書きそうなものを。 俺が指摘すると、ハルヒは得意げに返答した。 「あんたがどうがんばったって二十五年後に大富豪や社長になってるわけないもん。そんな傲慢な願いは神様だって叶えてくれないし、あたしが神様だったらやっぱりあんたをそんなお金持ちにはしないわよ。だからあたしは叶ってくれそうな現実的な願い事を書いたつもりなの。よかったわね、これであんたも二十五年後には路頭に迷わずにすむわ。これから毎日朝昼晩三回ずつあたしに向かって手を合わせなさい」 何というか、団長ってのは団員を気遣うものらしいからな。それだけ団長の自覚が芽生えたってことで感謝するべきだろう。崇めるつもりは毛頭ないが。 朝比奈さんはまた、 『もっとおいしいお茶が淹れられるようになりますように』 『みんな幸せに過ごせますように』 と、後半部分など感涙モノの心の広さで、俺は改めて幸せに過ごさねばなるまいと心持ちを新たにしたのだった。笹の葉に吊した短冊に向かってパンパン手を叩いて黙祷する姿も、なかなか可愛らしいですよ。 『世界平和』 『平穏無事』 かのような高校生にしては無益に老成しているように見受けられる四文字熟語を書き殴ったのはやはり古泉で、何となく古泉の苦労を暗に窺わせる願い事である。古泉は吊してから時折吹き込む風に揺られる願い事を哀愁漂う表情でしばし眺めていたが、俺の視線に気づくと鼻を鳴らして肩をすくめた。俺とどっちが苦労してるかは微妙なところだな。 長門は、 『保守』 『進展』 何やら無味乾燥なくせに意味ありげなことを完璧な明朝体で書き、若干背伸びして笹の葉に吊していた。棒立ちで自分の書いた願い事を動物園のパンダを見るような目つきで眺めている。 「十六年後とか二十五年後に、お前はまだ地球にいるのか?」 俺は気になって、まだ竹の前から離れようとしないショートカットに訊いてみた。もちろんハルヒには聞こえないよう、声をひそめて。 長門は俺の言った意味を確かめるように二、三秒間をおいてから、 「地球上にいると断定することはできない。それを決定するのはわたしではなく情報統合思念体だから」 そりゃまた、あの宇宙意識を罵るネタができたもんだな。 「ただし」 長門は補足するように言った。 「わたしという個体は存在し続ける。有機生命体の機能を持っているとは限らないが、情報生命体、あるいは単なる情報体として銀河系のどこかに必ず存在しているはず」 長門にしては力強い言葉であった。 俺は何となく、文芸部冊子を作ったときの長門の幻想ホラーを思い返していた。 綿を連ねるような奇蹟は後から後から降り続く。 これを私の名前としよう。 そう思い、そう思ったことで私は幽霊でなくなった。 ――ほんのちっぽけな奇蹟。 ふむ。やっぱり長門には有機生命体のままでいてもらいたいもんだよな。 「夏休みまでは吊しとくからねっ」 というように、今年のSOS団の七夕は変な雰囲気をまとうキミョウキテレツなイベントとなった。 それぞれの組織の思惑が多分に含まれているであろうこの神に向けた願掛けも、ハルヒの意見によってしばらくはこの部室に居座りそうである。 ベガとアルタイルにもしこの文字群が見えたなら、ぜひそうしてやって欲しいもんだ。少なくとも、長門と朝比奈さんと古泉の願いくらいはな。あとハルヒの二十五年後に向けた願いも叶えてやって欲しい。十六年後に地球の公転が逆回転になってしまった場合地球にどんな影響が及ぶのかはいまいち解らんが、非現実的で傲慢な願いは神様も叶えてくれないだろうというハルヒ説に基づくのなら実現しないから大丈夫だ。俺が案ずるまでもなく地球は安泰さ。 ああ、誰か忘れてるな。 俺だ。 こんなのは真面目に書いたって物資的にサンタクロース以下の利用価値しかないだろうが、何も書かないのもどうかと思うしこの集団の中でウケ狙いの願い事を書いても古泉の苦笑が返ってくるだけのように思えたので、とりあえず思うままに書いてみた。去年の俺は俗物を頼んだために、どうせ未来の俺は金には困っていないだろう。だったらと思ってこう書いた。 『俺の身の安全を確保しろ』 『俺の知り合いに死人またはそれと同意の状態になる奴を出すな』 * 突然だが、SOS団という部活以下同好会以下の課外活動を何を持って終了して下校するかというのは実はほとんど決まったパターンである。 長門が電話帳ではないかと思うほど分厚いハードカバーを閉じると、その音を合図として誰からともなく席を立つことが習慣化されているのだ。おかしなことで、この暗黙の了解はハルヒにも通用しており、その日のハルヒがどんなに不機嫌オーラを発していても長門が本を閉じると自然と通学鞄を手にするのである。 ただし珍しいこともあるもんで今日は違った。今日は長門ではなく古泉が「ああ、もう時間ですね」と言ったのが終了の合図となったのだ。なるほど校内でも下校を急き立てるBGMが流れ出している。俺と古泉は廊下に放り出され、まもなく着替え終わった朝比奈さんと共にハルヒも出てきた。 「有希、早くしなさい」 驚いたことに長門はまだ部室内にいるようだった。ハルヒの呼びかけに中から小さく「わかった」という声がしたが、出てくる気配はない。読んでいる本が修羅場でも迎えたのか。 「校門のとこで待ってるけど、いい? いいなら戸締まりもやっといてくれるとありがたいんだけど」 再び「わかった」という声だけが聞こえた。ハルヒは妙な顔をしながらも他の団員を引き連れて階段へと歩き出す。俺は戻るべきかハルヒの金魚のフンと化すべきかしばし逡巡していると微苦笑の古泉が耳打ちしてきた。 「行ってあげたほうがいいでしょうね。いえ、もちろん僕ではなくあなたです」 「何か思惑があるのか?」 「さあ。もしかすると、あれは彼女なりの意思表示かもしれませんよ。あなたと二人だけの状況が欲しかったという、ね」 何か言い返してやるべきかと思ったが、古泉が気色悪くウインクなぞするので俺は黙って部室へと舞い戻った。一人で。 呆れたもので長門はまだパイプ椅子に座ってハードカバーに目を落としていた。 俺は何となく頬が弛みそうになるのを感じながら、 「長門、最近調子はどうだ」 長門は読みかけの本から漆黒の瞳を上げると首だけ俺のほうにやった。 「どう、とは」 「何かおかしなことが起こってたりしないかって意味だ。具体的に言うと、この間の宇宙野郎が暴れてたりしないか、とか」 「そう」 無論俺は長門の口から「ない」という二文字が出てくるに違いないと思っていた。古泉に教えられたこともあるし、さすがに九曜のヤツも少しは黙っててくれるだろうと。何よりあいつは情報統合思念体の監視下にあるんだ。そういうのは情報統合思念体の得意技なはずである。 だから、長門が無感動な声で当然のように、 「ある」 と答えたときには俺は反応に困った。 「えーと、あるってーと、おかしなことが起こっているということなのか?」 「そう」 そんなおはようの挨拶くらい簡単に言われても。 「どんなことなんだ。やっぱりあの、テンガイナントカってヤツがからんでるのか?」 「彼らに新たな動きが見られた」 長門は俺に視線を固定したまま、 「天蓋領域が、彼らのインターフェースを地球上から退去させた」 インターフェースの退去。 それがいったいどんな意味を持っているのかを理解するのに、俺はしばらく時間を要した。天蓋領域のインターフェース。長門とは違う種類の宇宙意識。 「九曜のことか」 「そう。情報統合思念体の把握能力では、現時点の地球において周防九曜と呼称されるインターフェースの存在を感知できなくなっている」 長門の淡々とした声が俺の鼓膜を震わせ、脳に届いて情報を理解したのと同時に俺は戦慄とも安堵ともつかぬ何かが身体を走り抜けていくのを感じた。 「地球からいなくなったってのか?」 「そう」 なんと。 周防九曜が地球からいなくなった。長門を何度となく攻撃してきたSOS団にとっての強敵は目の前から消え去った。 嬉しいことのはずである。あんなのが地球にいてメリットがあるとは思えん。あれに比べればタコ型火星人のほうがよっぽど庶民的であって友好的である。 だというのに、俺はいまいち喜べなかった。いろいろありすぎたせいで疑り深くなっているのかもしれん。 驚いた。俺はどうやら疑念を抱いているようだった。 なぜ九曜が地球からいなくなったのだろうか。 目的を諦めたのか。ハルヒの力だか佐々木の力だか知らないが、それを諦めて宇宙に帰っていったのか。 そんなことはありえん。 よもや長門並の力を持つあいつらがそんな簡単に折れるとは思えない。地球から出ていったのは目的を諦めたのではなく、何か他の目的があるからではないか。 捉えようによっては悲観的な考え方にも思えるかもしれんが俺は妥当なところだと思うね。俺の頭も経験値を着々と増やしているのさ。ま、何でいなくなったかと訊かれても俺は答えられんのだが。 こういうときは解ってそうな奴に訊くのが一番である。 「何故だ」 俺は訊いた。 「何で九曜が地球からいなくなったんだ」 「解らない。天蓋領域の思考パターンは我々には理解不能なもの。また、彼女がいなくなることによって情報統合思念体と天蓋領域との唯一の接点も失われたた。我々が彼らの意思を読みとることはできない」 あんなヤツでも一応唯一の情報源だったわけだしな。 それがいなくなったってのはますます怪しいじゃないか。ようするに、九曜がいなくなれば長門たちが天蓋領域の行動を把握できなくなるということだ。橋渡しをしていた九曜を地球から退去させることで、天蓋領域は情報統合思念体に意思を読まれることなく行動できるようになったわけだ。露骨に怪しすぎるだろ。 「それで、お前のところはどうするつもりなんだ。まさかそのまま放っておくのか?」 「天蓋領域の持つ力は情報統合思念体とほぼ互角だと判明している。退去の理由をはっきりさせないまま放っておくのは危険。今、情報統合思念体が総力を挙げて天蓋領域の位置特定を行っているところ」 宇宙の概念だけの存在が同じく概念だけであろう存在の居場所をどうやって特定するのかは古泉でなくとも興味があるが、そこは後日ゆっくり聞かせてもうらうことにしよう。 「お前はどうなんだ。何か、役割とかないのか?」 長門は俺を見て数回瞬きし、 「わたしに与えられた役割は、他のインターフェースと協力してあなたたちを保護すること」 無感動な声でそう告げた。 「安心していい。天蓋領域からの攻撃はわたしたちがガードする。危害は加えさせない」 他のインターフェースってのは喜緑さんのことだろうか。確かに、彼女と長門、それに古泉と朝比奈さん(小)(大)がいてくれるのならそれほど心強いことはないだろう。 しかしな、何度も言うが守られるだけってのも決して居心地がいいもんじゃないんだ。ハルヒみたいに無自覚ならともかく、俺のように何かが起こっていると知りながら何もできないのはけっこう苦痛だぜ。俺だってハルヒ爆弾の導火線に火をつけることぐらいはできるのだが、それを爆発させたことはほとんどないし、十二月に世界が変わったときは導火線に火をつけることすら不可能だった。あの時の喪失感はさすがにもう充分だ。 「長門、俺らを守ってくれるのはありがたいけどな、絶対に無理はするなよ。苦しくなったら何でもして俺か誰かに伝えてくれ。栞に書いて本に挟んでくれるだけでもいいし、ちょっと表情を変えるだけでもいい。あんまりお前にばっかり苦労をかけるのは嫌なんだ。お前も俺もSOS団の団員なんだからな」 「そう」 長門は表情一つ変えずに俺の顔を直視しながら、 「了解した」 * その後、俺はようやく本を閉じた長門と一緒に校門に向かった。さすがにもう待っていないかと思ったが校門前ではハルヒが律儀にも不機嫌面をして立っており、ついでに朝比奈さんと古泉もいた。 「遅い! 罰金!」 ハルヒは俺が駅前集合に遅れたシチュエーションとまったく同じトーンで言ってのけ、二人っきりで何をしていたのかさんざん言及されたあげくに結局俺が今度の市内パトロールで喫茶店代を奢ることになってしまった。長門はいいのかとツッコみたいところだが、どうせそんなことを言っても俺が喫茶店代を奢るのは日常茶飯事であり、長門にはいろいろ世話になってることもあるしたかが喫茶店代くらいでぶつぶつ文句を言うほど俺はできていない人間ではないつもりなので俺は口をつぐんだ。 そんなこんなで、ハルヒのUMAの話に付き合ったり古泉のややこしい宇宙理論の話を聞き流したりしているうちに駅前に着いて解散の運びとなった。下校途中も無言だった長門は、ハルヒに「じゃあね有希」と言われると聞こえないような声で「そう」とだけ回答した。マンションの方向にすたすたと去っていくセーラー服の小さな後ろ姿を何ともなしに眺めながら、俺は終わりそうにないハルヒのUFOがどうとかいう話に耳を傾けるのだった。 * さて、ここらへんでこの話の一旦の区切りがつくことになる。 今は知る由もなかったなどという常套句があるが確かにその通りであり、この静けさは嵐の前の静けさだったらしい。台風の目はいつまでも俺たちを庇ってくれはしなかった。 起こるべくして起こるのか、それともどこかで糸を引いているヤツがいるのか。どっちでもいいが、俺はそいつらに言いたい。 ふざけんな。
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そして時間遡行。亀的TPDDの内部には、後部にやたらでかいグラウンド整地用のローラーみたいなものが取り付けられており、みゆきが稼動させている間中、それに対応するように幾何学的な模様が描き出されていた。これが技術革新によって、あの小さい金属棒へと変貌するんだろう。 とまあ、これ以外に時間遡行中に特筆すべきものはなかった。そして俺たちが着いた先は……。 「……同じ公園、か?」 多分、さっきまで居た公園と一緒なのは間違いない。ただ、備え付けの設備が若干綺麗だったり、後でペンキの塗り替えでもしたのだろうかという感じで俺の知っているものとは色違いな遊具がある。それに……、 「フフ。ちゃんと時間が止まってるみたいですね」 なんで時間を止めなければならないのかも疑問だが、それは瑣末な問題でしかない。朝比奈さん(大)に聞けばわかるかも知れんが、俺は実行あるのみだ。よって聞かない。 「……ハルヒは、どこだ?」 こっちの方が重要なのであり、俺にとってこれ以外の考え事は要らないのだ。 「えっと、たしか……あ、いましたっ」 みゆきが嬉しそうに指を差す方向には空中で停止したブランコがあり、その下に何やら伏した人影があった。 「あれがハルヒか」 もしかしてあいつ……ブランコ漕いでる最中に時間が止まって、そのまま下に落下したんじゃないだろうな? それちょっと面白いなと思いながら近づき、 「おい、大丈夫か?」 俺は人影へと話しかけた。その人はまさしくハルヒで、ハルヒは立ち上がりながら東中の制服についた泥を払い、 「…………」 俺の呼びかけに全くの無反応を示した。 「お前、涼宮ハルヒだよな?」 「…………」 ハルヒはまるで死ぬほどツマラナイギャグを言った奴を見るような冷徹な視線を俺に向け、すぐに踵を返しスタスタと歩き去ろうとした。 「ちょっと待ってくれ」 「…………」 なおも無視して何処かへ行こうとするハルヒ。俺はハルヒの腕を掴んで静止させようとすると、 「なにすんのよ!」 お前は何でなにも反応しないんだと言いたい。 「……ふん」 顔を背けやがった。 「ってかさ、この状況がまず変だと思わないのか? お前が乗ってたブランコを見てみろ。あいつ、ニュートンにケンカ売ってるぞ」 不自然に宙へと浮かぶブランコの椅子を見せると、 「くだらないわ」 「……くだらないだって? お前、こういう不思議なモンが好物じゃないのか?」 「……まず、あんたは誰なのよ」 「ジョン・スミス」 「帰れ」 帰るわけにはいかないので、 「お前さ、宇宙人や未来人や超能力者に会いたいって思ってるんじゃないか?」 「…………」 「喜べ。あそこで手を振ってる女の子はな、実は、宇宙人で未来人で魔法使いなんだ」 「……じゃあ、あんたは何者なのよ?」 「強いて言うなら……未来人だな」 「あの子と被ってるじゃない。あんた必要ないわね」 「……とにかく、今から俺について来て欲しいんだ。理由は、行けば分かる」 「ぶっ殺されたいの?」 ぶっ殺されたくはねえな。 「じゃあ帰れ」 ……と言って、沈黙。なんか、一つだけ分かったことがある。無口なハルヒは…… 本気でまったくもってハッキリと可愛くない。 なんなんだ? このダークハルヒの覇気の無さは。これなら、まだ俺の知ってる……雪も降らずに庭駆け回るハルヒの方がマシだ。 それにこいつ、中学に入ってからは不思議探しに精を出すんじゃなかったのか? 今、目の前にタイムマシンやらなんやらがあるというのに、なぜこんなに興味を示さないんだろうか。 「キョン先輩っ、どうしたんですか? 早く帰らないと怒られちゃいますよー?」 離れからみゆきがそう叫ぶと、 「なによあんた。キョン? ジョンじゃないの?」 うーん……ばれても良かったのだろうか。だがまあキョンもジョンも、このハルヒにしたら変わりゃしないか。多分。 「好きな方で呼んでくれ」 「馬鹿キョン」 チョップ。 「……痛いわねっ! なにすんのよ!」 「わがまま言ってないで、早く行くぞハルヒ」 「無茶言ってんのはどっちよ!?」 悲しいくらい俺だったが、 「今から、他の宇宙人や未来人や超能力者と会いに行くんだ。お前、そーいうのに会いたいんじゃないのか?」 ……これに対してハルヒは、俺の耳がオカシクなったのかと思うような言葉を吐いた。 「――そんなの、いるわけないじゃない!」 このハルヒは何を言っているんだろう。いや、至極まともなことを言ってはいるが、おかしいじゃないか。 こいつは、それらを探してこれから中学時代を過ごしていくはずだ。なんでそれを否定する。むしろ、喜び勇んで飛びついてくるとばかり思っていたが。 「……いい加減にしてよ」 ハルヒは呆れたように言い、盛大な嘆息を一つついた後に、 「……あたしもヤキがまわったものね。現実がツマンナイからって、こんな夢を見るだなんて。……ホント、なっさけない」 ――こいつは、これが夢だと思ってんのか。確かに常識人は、このイレギュラーな状態をそのまま認知はしないのだろうし。 「……夢だってかまわん。とにかく、お前はどうする? 俺についてくるのか、こないのか」 来ないと言われたら困り果てる次第だったが、 「……わかったわよ。どうせ夢だしさ。ついてったげる」 「――ああ、すまないな」 この特異な空間が功を奏したのだろう。ハルヒはついてくると言い、俺たちはハルヒを連れて元の時間の公園へと戻った。 「二人とも、お疲れ様。大変でした?」 いやあ、途中で殺されかけましたが概ね問題なしです。 「ふふ。みゆきもごくろうさま。操縦はどうだった?」 「んー。なんだか、絵を描きながら計算してるみたいだったかな?」 みゆきはなにやら意味深なことを言っている。 「ねえキョン。この女の人は何? 宇宙人?」 このハルヒも俺に対する呼称はキョンに決めたのかと思いながら、 「この美人なお姉さんは朝比奈みくるさんと言ってだな、未来人だ。あそこにいる可愛らしい童顔の女の子も同一人物で、彼女のもっと未来の姿がこの朝比奈さんになる」 「ふうん。他には?」 「あの不揃いのショートヘアと緑髪の人が宇宙人で、順繰りに長門有希と喜緑江美里さんだ。超能力者は……ん?」 古泉は……そうだった。あいつは今、長門の思念体と一緒に過去に行ってるんだっけ。 「古泉くんの紹介は、規定事項が終わってからで」 朝比奈さん(大)はハルヒに言い、 「では早速、《あの日》に……」 「その前にまず、一つ疑問があるんですが」 俺は朝比奈さん(大)に、 「俺たちが《あの日》へと行くのは二回目になりますよね。これはどういうことなんですか?」 と質問すると、 「この間の時間遡行は、時系列的に言えば二回目になるの。そして、これからの行動が一回目の《あの日》になるんです」 理解しかねていると、 「キョンくんが朝倉さんに刺されてしまったとき、あなたはこの中学生の涼宮さんを見ていたはずです。それが一回目の《あの日》……つまり、これからのわたしたちの行動を、あのときのキョンくんは見ていたの。そして前回の時間遡行の際、朝倉さんが消えて世界を修正した《あの日》は……実は、あれはSTCデータを切り取って未来に繋ぐための作業だったの」 ますます理解しかねて、俺は諦めた。 とにかく、俺がやることは唯一つ。単純明快だ。これからハルヒと長門と朝比奈さん(小)と《あの日》へ行き、朝倉に会う。俺は、あの朝倉にどう対応するのかを考えておかないとな。 「あの……」 っと、朝比奈さん(小)が、 「あたしは、また眠ってないといけないんですか……? あたしだって、その、みんなの力に……」 振り絞るように言い連ねると、朝比奈さん(大)は、 「あなたの気持ちは良く分かります。だって、わたしなんだもの」 過去の自分をニッコリと見つめて、 「今回はあなたに眠って貰う必要はありません。眠らせる理由もありませんし、あなたの力も必要なの」 「……あたしでも、長門さんの力になれるんですねっ!」 喜々として朝比奈さん(小)が言う。俺も、この朝比奈さんが自分で頑張れることには大いに賛成だ。 「……少し、よろしいでしょうか?」 「ふえ?」 不意に喜緑さんが言葉を挟み、長門を一瞥してから、 「現在この長門さんの端末には、長門さんの思念体が入っていません。ですので、暫定的なパーソナルデータを付加し自律的に行動できるよう設定しています。この長門さんは彼女本来の能力を発揮出来ますので、朝倉さんが襲ってきたとしても心配はないでしょう。ですが、その数の皆さんを守りながらではこの長門さんでも対応は厳しいと思われます。なので、そちらの小さい朝比奈みくるさんの情報を、暫定的にインターフェイスにおける知覚外領域へと変更する処置を行いたいのですが」 「それ、どういうことですか?」 俺が尋ねると、 「わたしたちのようなインターフェイスに、彼女の存在を捉えることが出来ないようにするということです」 つまり、あれか。九曜なんかが俺たちに姿を認識させない感じの情報操作だろう。確かにこの朝比奈さん(小)は俺たちの中でもっともか弱き守るべき存在だし、あの殺人鬼に狙われでもしたら一瞬だろう。 「でも、」朝比奈さん(小)は申しわけなさそうに「それだと、あたしが行く意味がないんじゃ……」 確かにそうである。姿を隠して不意打ちでもやるなら話は別だが、そんなことを朝比奈さんに任せる筈もなければ、俺もそんな朝比奈さんの姿を見たくはない。 「――えっと、小さいわたしには……視覚認識操作だけを行ってください。それで大丈夫ですから……」 大人の朝比奈さんはなぜか恥ずかしそうにそう言うと、 「了解しました。では……」 喜緑さんはスタスタと、朝比奈さん(小)はパタパタと互いに近寄り、そして『チュッ』という音を立て――? 「――ひゃっ! な……きみどりさ、ええええ!?」 「なんでしょう?」 いや、「なんでしょう?」って喜緑さん。さっき俺はすごいもんを見た気がするんですが。 という俺の質問は、 「キ、キス!?」 という単語でしか言葉に表されなかった。 そりゃそうだ。いきなり目の前で女子同士のキスなんぞ見せられたら、誰だって困惑して冷静な質問などできるはずもない。それが知った人同士だったなら……特に。 「わたしは、彼女にプログラムを送っただけです。それ以外の意味は先程の行動にはありません」 「……でもっ長門さんは、噛み付いてから、その……」 朝比奈さん(小)が火照った顔を両手で隠しながら、俺をそろそろと見ている。 「――長門さんが? それはどういう……」 と不思議そうに喜緑さんは言い、そして「――ああ、恐らくは」と何かに気付いた様子でニッコリと、 「長門さんは、照れていたんでしょう」 長門はキスが恥ずかしいから、手首に噛み付き攻撃をしてたってのか? ――なんだ、あいつにもそういう可愛いところが……、 「……ちょっとキョン。あたしはどうすればいいのよ? あんた、あたしに女同士の濡れ場を見せたかったわけ?」 なわけないだろうが。時まで超えてそんな目的って、どんな変態だ。それ。 俺とハルヒがヒソヒソ話――ハルヒは大声だったが――をしていると 「……それでは皆さん。後は行動あるのみです」 朝比奈さん(大)はここ一番凛々しく決意に満ちた顔で、 「この規定事項は、SOS団とわたしの未来……いえ、わたしたちの未来を発生させるために必要な《最重要項》になります。そして、これから向かう《あの日》には他の分岐も存在し、もしそちらが選ばれてしまった場合、この世界は存在できなくなってしまう可能性も存在します。その分岐とは――――いえ、これは言わなくてもいいですね。わたしはキョンくんを……みんなを、信じていますから」 朝比奈さん(大)はみゆきを自分へと呼び寄せ、 「みゆきはお留守番。わたしたちが帰ってくるまで待っててね」 「うんっ。待ってるっ」 みゆきは元気な笑顔で返事をし、俺を向いてシャドーボクシングをしながら、 「いまから朝倉っていう悪い人と会いにいくんですよね? あたしの代わりに、先輩がその人の根性を叩き直してあげてくださいよっ」 相手はナイフ持ちだから実力行使は出来ないが、とにかくまた刺されるようなことには……ならないよな? 「情報統合思念体……そしてわたしからも、長門さんをお願いします。朝倉さんは長門さんにとってのバックアップですので、今回の行動では彼女が鍵になっているでしょう」 喜緑さんに受けた恩もありますし、第一、長門に受けた恩も計り知れない。だが……そんなこととは関係なく、俺は全力で長門を助けにいきますよ。大事な仲間としてね。 「キョンくんたちが向かう時空間座標は前回と同じです。喜緑さん、みゆきをお願いします」 そして大人の朝比奈さんは俺の目の奥を見通すような視線を向け、 「……きっと、大丈夫」 お色気お姉さんから元気を注入されて俄然やる気になっていると、 「ねえ、またどこかに行くの? あたしも何かやんなきゃいけないの?」 決まってる。《あの日》へ行って、長門を助けるために、あいつに話を聞きに行くんだ。 「……わけわかんない。大体、SOS団ってなによ。あんたたちはなんなのよ?」 「ん。SOS団ってのはだな、世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団の略称で、俺たちはその団員なのさ。そして、もちろん団長はお前だ。お前が高校に入って、俺たちを集めてくれる予定なんだ」 ……ハルヒ。俺たちは、お前に団長になってもらわんと非常に困る。お前じゃなきゃダメなんだ。高校に入ってみんなを見つけられるのはお前以外にいやしないだろうし、俺だって…………涼宮ハルヒって奴は、嫌いじゃないんだしさ。 「………ふうん」 ハルヒはにべもなく呟くと、そのまま何かを考えるように沈黙した。 「あ、いけない。忘れるところでした」 朝比奈さん(大)は紺色ミニタイトのポケットへと手を入れ、 「これ、キョンくんにあげます。お守り。失くさないでね」 ポトンと俺の手に渡されたのは、あの幾何学模様が入った金属棒だった。 「良いんですか? 頂いたりして」 「どうぞ。あなたの好きなように使ってもらって構いません」 使いどころなど思いつかないが、くれるのならありがたく頂戴しておこう。 「わたしはみなさんを見送った後、あの七夕へと向かいます。じゃあ、朝比奈みくる。みんなをお願いします」 小さいほうの朝比奈さんに合図をし、 「はい。では……行きますね。キョンくんと涼宮さんは目をつむって下さい」 俺は指示に従う前に、長門の姿を目に入れた。 ――長門。今まで……待たせてすまかったな。 そう心で思い、目をつむった俺に降りかかってきたのは、いくら体験しても慣れようのないTPDDの時間遡行に付属する強烈な不快感。ハルヒにこれを注意しておけばよかった、そういえば、亀的TPDDの乗り心地は悪くなかったな、などと考えていれるのは、やはり少しはこの感覚に慣れてきているからだろうか……。 そして目を開けた俺に見えたものは、校庭にたたずむ俺。それを見守る俺たち。だが、俺の視線を捉えて放さなかったのは……。 眼鏡姿の長門だった。 第五楽章・形
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プロローグ ある日の午前十一時半、倦怠生活に身をやつしている身分の俺には一日のうちでもっとも夢膨らむ楽しい時間。このところ妙に開放感を感じているのは、きっと束縛感の塊のようなやつが俺から少なくとも十メートル半径にいないからだろう。精神衛生的にも胃腸の機能的にも正常らしい俺は、さて今日はなにを食おうかとあれこれ思案していた。その矢先に机の上の内線が鳴った。無視して昼飯に出かけるにはまだ二十分ほど早いので仕方なく受話器を取ると総務部からの転送だった。お客様からお電話よ、と先輩のお姉さまがおっしゃった。俺を名指しで外線?先物取引のセールスとかじゃないだろうな。 「キョン、今日お昼ご飯おごりなさい」 あいつ俺に電話するのに代表にかけやがったのか。 「職場に直接かけてくんな。携帯にメールでもすりゃいいだろ」 「いいじゃないの。あんたがどんな人たちと働いてるか知りたかったのよ」 俺の周辺に涼宮教を広めないでくれ。 「俺とお前の職場じゃ昼飯を食うには離れすぎてるだろ」 「じゃあ、北口駅前でね」 そう言っていきなり切りやがった。相変わらずこっちの都合なんてないんだよなぁこいつは。 「すいません、外で昼飯食って打ち合わせに直行します。三時ごろ戻ります」 俺は戻りが遅れることを予想して上司に言った。いちおう取引先に会うカモフラージュのためにカバンを抱えて出た。中身は新聞しか入ってないんだが。 「キョン!こっちよこっち」 北口駅を出るとハルヒが大声で叫びながらハンドバッグを振り回していた。俺は横を向いて他人のフリ、他人のフリ。 「恥ずかしいなまったく」 「この近くにイタリア人がやってるフランス風ニカラグア料理の店が開いたのよ」 どんな料理だそれは。 ハルヒにつれて行かれた開店したばかりという瀟洒な料理店は意外に混んでいた。ニカラグアがどんな国かは知らないが、まあ昼時だからそれなりに客も入っているようだ。そのへんのOLが着る地味なフォーマルスーツに身を包んだハルヒはズカズカと店の中に入り込み、ウェイターが案内しようとするのも構わずいちばん見晴らしのよさそうな窓際の丸テーブルにどんと腰をおろした。 「あーあ。ほんと、退屈」 ハルヒがこれを言い出すのは危険信号だ。俺はパブロフの条件反射的に身構えた。何も言わない、何も言うまいぞ。 「あんたさぁ、」 腕を組んでテーブルに伏したままハルヒが呟いた。 「なんだ」 「仕事、楽しい?」 キター!!これはまずい展開だぞ。話の行方を考えて返事をしなくては。ハルヒがこういう話の振り方をするとき、不用意な俺の発言でとんでもない事件に巻き込まれることが歴史を通じて証明されている。 「半年だし、まあやっとペースに乗ったところって感じかな」 「あたしは退屈。こんな生活が退職するまで続くかと思うと憂鬱になるわ」 「定年までいることはないさ。結婚するとか、転職するとか、資格を取ってキャリアを重ねるとか、いろいろあるだろ」 「あんた、有希と結婚したとして、こんな生活が延々続くことに耐えられるの?」 「生活は安定するさ」 いや、今なんか問題発言がなかったかハルヒ。 「あたしは耐えられないわ。人に使われて歯車を演じるだけの人生なんて」 人、それを“歯車にさえなれない”と表現するんだが。そんなことをハルヒに向かって言ったら牙をむいて頭ごと食われそうなのでやめとこう。 「貯金して海外旅行でも行ったらどうだ」 「毎年それでリフレッシュするわけ?帰ってきて自分が飼われてるのを実感するだけよ」 「うーん……。お前を満足させられる会社ってのが、そもそもあるのかどうか分からん」 それ以上会話が続かず、俺たちはしばらく黙っていた。ハルヒは眠そうにニカラグア産コーヒーをすすった。もしかしたら俺たちはこのまま、一生社会のしがらみの流れに身を任せて生きていくしかないんじゃないか。そう思わせるような雰囲気が、俺とハルヒの半径二メートルくらいを充たした。だがまあ、それも悪くはないと思う。今までハルヒに付き合っていろいろやってきたが、もうお遊びは終わりだ。 俺は倦怠感に身をゆだね、持ってきた新聞を広げて壁を作った。ゆっくりしよう、どうせ戻りは三時だし。 「気がついた!」 ハルヒの声が店内に響き渡わたり、俺は新聞を落とした。突然俺のネクタイを締め上げた。ずいぶん前に似たようなシーンに遭遇した覚えがあるぞ。 「く、苦しい離せ」 「どうしてこんな簡単なことに気づかなかったのかしら」 「何に気づいたんだ」 「自分で作ればいいのよ!」 「なにをだ」 「会社よ会社」 うわ、まじ、やめて。ハルヒは携帯電話に向かって怒鳴った。 「全員集合!」 1章へ
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このノートに名前を書かれたものは死ぬ と言うノートを死神が人間界に落とし 退屈な天才少女 涼宮ハルヒがノートを拾い、 犯罪者を一掃し、犯罪を世の中から消し、 犯罪のない世の中を築こうとする、 皆からはキラと呼ばれていた しかし、その行く手を弾むもの、 世界の名探偵Sが動き出す、 ハルヒはKを殺すため Sはキラを捕まえるため 天才VS天才の勝負がはじまる。 本編(作者.やべ酉きえたんだ^^;) 第一話 始まり 外伝(下記は編集自由) デスノートででてきた者を置きまくってます _________________________________________________________________________________________________________
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管理人の独断と偏見で涼宮ハルヒのSSの名作集を作ってみました。 掲載話数は決して多くありません。 独断と偏見ゆえにwikiっぽくなくしてあります。 メニュー 長編 短編
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ハルヒ放送 くど、ひかり、悪者、Asukaで構成されていたラジオ。 ハルヒ⇒くど みくる⇒ひかり キョン⇒Asuka 古泉⇒悪者 長門⇒団員で補充 最近とてもご無沙汰。
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九章 まどろむ朝。今日もまたSOS団雑用係としてのハルヒに振り回される一日が始まるのか、という北高に入学して以来、 ずっと抱いている憂鬱ながらまんざらでもない感傷に浸り、 その直後、現在自分の身体に起こっている異変を思い起こし、絶望する。 それが俺のここ一日二日の朝だった。 それだけでも俺は今すぐ自分の首を締め上げたい衝動にかられるのに、今日はさらに最悪だ。 俺は昨日ハルヒにお別れを………… 何だ、もう学校に行く必要もないじゃないか。 お袋、親父、それに妹よ。悪いな、俺は今日この家を出て行く。お前達は無事生き延びて帰ってきたら、今まで通りの日常を過ごしてくれ。 やったな、これで一人分の食費、生活費、その他諸々が浮くぞ。 何だ。最悪だと思ってたが案外清々しいじゃないか。昨日はいい夢も見れたしな。 ハルヒが抱き締めてくれる夢…………を?ん?あれは本当に夢だったのか? 布団の中で、そこまで思考を展開していると………… 「コラーーー!!あんたいつまで寝てるのよ!いい加減起きな!!!さい!!!」 その声とともに俺を覆っていた布団が舞い上がり、俺の体は外気に触れブルッとなる。 妹か?なんて思考を巡らす暇もなく、俺はそこにいる人物が誰かを理解した。 「えー、あー……ハルヒ…なのか?学校……は?」 「あんたまだ寝ぼけてるの?今日は日曜でしょ!それに明日からは冬休みじゃない!ほら、朝ご飯出来てるわよ!さっさと顔洗って来ちゃいなさい!」 何だ、その休日なんだからいて当然!みたいな言い方は。 何故こいつがここにいる?夢か、これも夢なのか?いやだが妙にリアルに感じるな。 まるで昨日の夢みたいな……いや、そもそもあれは夢なのか?夢であってほしい。 というか、そうでないと困る。だって夢の中のハルヒは俺の今の状態を………… 「ぶつぶつ夢だなんだ…うるさいわね。」 しまった、混乱しすぎて口に出していたか。いや、でもこれも夢なら別に問題は………… 「はぁ…………夢じゃないわよ。昨日も、今もね。」 ハルヒは妙に説得力のある声で言った。 「じゃあもしかして……お前……………」 「ええ、あんたが何をしていたのか……全部……………知ってるわ……そう……全部ね…」 ――ずっとあんたと一緒にいるから―― 夢と思っていた記憶の奥底にある、その言葉を思い出した。 「帰れ!!!」 突如、俺の心に羞恥にも似た不快な感情が溢れだし、それはその言葉を発するまでに至った。 「俺を見るな!お前は俺と関わるべきじゃないんだ!!お前のためなんだよ!!帰れよ!ほら早く!!!」 叫び始めた寝起きの俺を前にしても、ハルヒはその目を少しも泳がせたりせず、じっと見ている。 「何ヤケクソになってんのよ!あんた今のまんまじゃどうなるか分かってんの?!」 「ああ、分かってるさ!!こんな命……ましてお前の世話になって得る命なんて願い下げだ!」 ハルヒの表情がみるみる怒りの感情をあらわしていく。 「はぁ~、ダメ、我慢しようと思ってたけど…やっぱ感情のコントロールって難しいわね。」 その言葉を聞き終わらないうちに俺の部屋に『パン!!』という心地よい音が響き渡った。 ほっぺた、いてぇ…… 「ふ…ざけんじゃないわよ!!許さない……死ぬなんて絶対許さないんだからね! 言いなさい!何であんたは覚せい剤なんてバカなことやったの!!」 ……何でだ…クソ!何でだよ!何で思った通りに動いてくれないんだ!ちくしょう!ちくしょう!………………そうかよ…………なら……… 「こっちにだって考えがある。」 俺はそう言うと台所に駆けていった。大丈夫、理性はある。脅すだけ……ギリギリの所で止められるはずだ。 お前のせいだからな。もし万が一が起こってもお前の責任だ。お前が俺の思い通りにならないのが……悪いんだからな。 台所には味噌汁のいい香りがしたが、そんなのに構ってられる程の余裕は今の俺にはない。 調理に使ったであろうその包丁を手に取る。 ドクン!! それを持った途端、心臓の鼓動が、鼓膜にダイレクトに聞こえてきた。 一瞬、朝倉がそこにいるような感覚がしたが、すぐに消える。 だ、大丈夫だ。落ち着け、俺。早まるなよ。脅すだけ、そうだ脅すだけだ… 俺は急いで部屋に戻るため階段を駈け登り、扉を強引に開く。 ……とハルヒは部屋を出て行く前と同じポーズでそこにいた。 「ったく!あんた何しに行ってたのよ!悪いけど、あれはもうこの…い……」 ハルヒの目がわずかに下に下がり、 俺の両手で前に突き出すように握っている包丁を捕らえると、その顔は一気に蒼白くなっていった。 大丈夫…忘れるな。理性を忘れるな。 「悪いが本気だ!これ以上俺の家に居座るならどうなるか…こいつを見りゃわかるだろ。 今の俺は正気じゃないからなぁ!!何するか分からないぞ!」 自ら作り出した狂気じみた演技に飲み込まれそうになる。落ち着け…落ち着け! 「キョン…あんた…」 ハルヒがみるみる恐怖に染められていく……はずだった。 何でだ…何でお前はこの状況でそんな顔が出来る… 俺の前には、もう何十年ぶりになるのではないかと思うくらい、久々に感じる、 大胆不適で強気な笑みがあった。 ズン!と音がするくらいしっかりとした足取りで、ハルヒが一歩ずつ近付いてくる。 一歩、また一歩。ついには俺とハルヒの距離は、俺が突き出した包丁一本分しか無くなってしまった。 あと一歩踏み込んだら、確実に包丁はハルヒに突き刺さる。 後ろに下がろうにも、部屋の壁がそれを許さない。 完璧に追い詰められてしまった。ちくしょう…こんなときまで俺はハルヒに…… !!!!! 俺の思考はそこで中断してしまった。ハルヒが前に踏み出すかのように右足を僅かに浮かせたからだ。 「バッ!!!」 咄嗟に包丁を横に投げた瞬間、ハルヒは俺にのしかかってきた。 仰向けの俺に覆いかぶさっているハルヒの顔は俺の胸に押しつけているため、確認出来ない。 そうか、こいつはこれを狙っていたのか。だけど、もし俺が動揺せず包丁を構えたままだったら、こいつは…… 「はあ……はあ……」 ハルヒの超高速で鳴っている心臓の鼓動が伝わってくる。それと同時にハルヒの肩が小刻みに震えているのも確認出来た。 「ハルヒ…………」 「黙ってなさい。」 その言葉と同時にハルヒは顔をこちらに向けた。 なんつーか……俺は何てことをしてしまったんだろう。ハルヒの顔は冷や汗でびしょびしょだった。 「………から……」 「え???」 「負けないから。絶対にあんたを治すまで……もう…決めたんだから……!」 俺は何て声をかけたらいいか分からなかった。俺がずっと黙っていると、ハルヒは、 俺の上からどき、素早く包丁を取り上げると言った。 「さっさと顔洗って来ちゃいなさい。」 俺はハルヒに言われた通り、顔を洗うため洗面所にいる。やれやれ、結局ハルヒに言いくるめられちまった。 …………あいつ、あんなに震えてた。当たり前だ。一歩間違えれば死んでいた、その恐怖は計り知れない あの時、あいつは信じたのだろうか。ドラッグに侵され、おかしくなっちまった俺を。 命をかけるだけの価値、俺にはもうねえだろうが……俺は…お前を裏切ったんだぞ? ふと俺は顔を上げ、鏡を見た。 「何だよ、こりゃ……」 お前はバカな奴だよ、ハルヒ。こんな目の下にクマがあって、 肌は土気色で表情筋が暴走したように引きつってる奴が包丁持って目の前にいたら、普通逃げ出すだろ………… リビングに戻ると、何とも豪華な朝食と、エプロンを脱いでる途中のハルヒが俺を出迎えた。 献立は……魚の塩焼きに味噌汁、厚焼き玉子、肉じゃが、これ以上ないってくらい純粋な日本の朝食だ。 ハルヒがこういう純和風なメニューを作るのは新鮮だな。何となく、サンドイッチとか洋風なイメージがあった。 「ちゃっちゃと食べちゃいなさい。」 「あ、ああ…………」 そういや昨日は何も食ってなかったな。一気に空腹感が増してきた。 急いでイスに座り、味噌汁を一口飲む。途端、俺に衝撃が走った。 「…………!!!」 声にならないとはこのことだろうな。この世のものとは思えないくらいうまい、冷えきった心身が温まってくる。 魚を箸でほぐしもせずかぶりつく、うまい、うまい……幸せだ……… こんな当たり前のことが、今の俺にはどうしようもなく嬉しかった。 「ハ……ルヒ……」 涙が止まらない。俺は…人間に戻れる…… 「なあに?」 にじむ視界の先にはハルヒが微笑んでいる。 「俺……生きたい………」 この時のハルヒの顔は忘れられないね。どうしたらあんなにも喜びを表情で表せられるのだろう。 「当たり前よ!!」 「それから、もう一つお願いがあるんだ。」 もっと生きてる喜びをかみ締めたい。 「ポニーテール……してくれないか?」 機関運営の葬式場。そこでオレは河村から衝撃の告白を受けた。 「神を……殺す?それって涼宮さんのことを言ってるのか?」 目の前の男は狂気に顔を歪ませ、続ける。 「他に誰がいるんだよ。お前なら奴を呼び出すくらい簡単だろ?センパイの苦しみを味合わせてやるのさ。」 思考がまとまらない。こいつは今何と言った? 確かに今までにも河村は涼宮さんへの不満をよくオレに漏らしていたが、これは明らかに別物だ。明確な悪意と殺意。 「い、言ってる意味が分からない。」 「お前だって嫌気が差してたんじゃないか?俺達の進む人生は奴によって180度ねじ曲げられたんだぜ? 神様ごっこはここいらでやめにしようじゃないか。」 冗談じゃない、確かに涼宮さんを恨んだ事がないと言えば嘘になるし、 もし自分がこの力を与えられなかったらどれだけ平和な毎日を送れていただろうと考えることもあった。 それは嘘じゃない。 だけど、この力のお陰でオレはSOS団に出会えた。何もない、平凡な暮らしから脱却出来たんだ。 オレはいつの間にか、涼宮さんに感謝していた。殺すなんて有り得ない。 「少し、考えさせてくれ。」 思考とは裏腹に、オレの口から出たのは臆病で怠惰な先送りの言葉だった。 「ああ、分かった。いい返事期待してるぜ。それから美那にこのことは言わないでくれ。余計な心配かけたくない。」 「田丸さん、少しいいですか?」 場面は変わってオレは田丸さん(兄)と話している 「実は………」 この時オレは親友を売った。 「そうか、河村が…いつかはこんな時が来るかもしれんと思っていた。…………古泉。」 田丸さん(兄)は真剣な表情でオレを見つめている。 「私はこのことをたまたま耳に入れた。お前達の会話を盗み聞きしてな。 お前は誰にも、このことを漏らしていないし、これから私がやろうとしていることも何も聞かされていない。いいな。」 オレは数人の機関の面々に取り押さえられている河村を目の当たりにしている。 「大人しくしろ!!」 田丸さんや荒川さんが激をとばす。 「古泉!お前……裏切ったな!何故だ!答えろ!!古泉ぃ!!!」 「タックン!タックン!!やめて!タックンを放してよぉ!」 オレはその時河村を見捨てた。涼宮さんを守るために。 それから河村は自らを捕縛しようとする仲間達を何とか振りほどき市内を駆け回った。 最後にたどり着いたのは春日さんの家だ。家の周りを包囲されると抵抗する気力もなくしたのか、大人しく捕まった。 その時は夢にも思わなかった。河村が春日さんの家で押収され残した覚せい剤を手に入れていたなんて。 河村は、機関本部の地下に幽閉された。人権無視も甚しい話だが、何せ世界の破滅がかかっている。 だから、この決定に疑問を抱く者はいなかった。あの春日さんですら。 「春日さん……オレ……」 「気にしなくていいよ。機関にいる以上、涼宮さんに害を及ぼす存在は抹消しなければならない。 古泉くんにはあれ意外の選択肢はなかったもんね…」 正直、かける言葉が見つからなかったオレは、 「ごめん……」 という謝罪の言葉が精一杯だった。 「あれ~?古泉くんは告げ口してないって話じゃなかったの~?」 いじわるそうに聞いてくる春日さんの笑顔は、今にも壊れそうで。 「別に恨んでないよ。全ては……涼宮ハルヒが悪いんだから……」 だからこそ、その言葉を聞いた時はゾッとした。 それから日がかなりたったある日、河村は食事を持ってきた見張りの一瞬のスキをついて、屋上に脱走した。 その時、河村は見るもの全てに自殺願望を与えるような表情をしながら言った。 「なあ、古泉、美那……」 地獄から響いてくるようなその声を、オレは忘れられそうもない。きっと春日さんも同じだろう。 「俺は今、とても清々しい気分なんだ……」 その言葉を最後に、河村は人間とは思えない程の跳躍でフェンスを飛び越え………落ちた。 授業が終わり、HRが終わり、いつものようにオレはSOS団部室にその足を運ぶ。 「古泉くん!!」 春日さんが走ってきた。あんなことがあったから休んでいるとばかり思っていた。強い人だ。 「どうしたんです?」 「え?ちょ、敬語……ううん、別にいいや…今日もあの部室に行くの?」 「そうですが。」 オレが行かない事で涼宮さんがイライラを積もらして閉鎖空間を作ったら大変だからな。……なんて、自惚れすぎか。 「何で?だって…だって涼宮さんは…!」 「聞きたくない。」 オレは咄嗟に言葉を遮った。 「僕だって何かにすがりついてなきゃやっていけない気分なんです。」 その言葉の持つ残酷さを知っていたが、自分のことだけで精一杯だった。 春日さんは呆然と立ちすくしていた。それをOKの合図と無理矢理解釈して、オレは歩き出した。 ノックを数回。無言が自己主張しているのを確認すると、オレは扉を開けた。 部室に入ると一番に目に入ったのは長門さんだった。いつもの指定席で本を読んでいる。 「他の皆さんはまだ来てませんか。」 ゆっくりと長門さんが目を合わす。 「休まなくていいの?」 ああ、やっぱりこの人は気付いているのか。彼女なりの気遣いが嬉しい。 「おや、僕の心配をしてくれるのですか?」 「……………」 ドガン!! 突然の爆音だ。それと同時に残りの三人がなだれ込んでくる。 「さぁ~みくるちゃん!さっさとこれに着替えるのよ!!」 変わらない。 「ふぇ~、やめてください~」 あんなことがあっても関係なく回り続けている。 「おい、ハルヒ!朝比奈さんがいやがってるじゃないか!何だっていきなりこんな服を着せようとしてるんだ。」 オレはこっちの居場所を選んだ。 「何でって、みくるちゃんもあと半年後には卒業じゃない!今のうちに出来る格好は全てやっておくべきよ!!」 楽しいな。 「だからってだなぁ。もう少し朝比奈さんの心労やその他諸々も考えてやって……」 「っだーー!うっさいわね!あたしはみくるちゃんの為を思ってやってるんだから!うれしいわよね!みくるちゃん!」 あの場所を霞ませてくれる程に。 「ふぇ、あの、あたし………」 「ほら!これとーっても可愛いでしょ!こんなのみくるちゃんに着せちゃったら男共は失禁モノよ!ね!有希!」 「……………そう」 次はオレにくるな。もう既に答えは用意してある。 「ね!古泉くん!!」 何も知らない、だからこそ明るい笑顔で涼宮さんは尋ねてくる。さて、オレもとびきりの笑顔を作ってと…… 「誠に結構かと。」
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6 章 出社するとハルヒが雑誌を読んでいた。 「フフン~」 やけに上機嫌だ。雑誌を眺めるハルヒは、野郎がえっち本を見るときにでもしないような気味の悪いニタニタ笑いをしていた。見たところ、OggiとかMOREとか、ふつーに本屋の店頭にありそうな女性ファッション誌だが。 「なんか面白い記事でも書いてあったのか?なんでゴム手袋なんかはめてんだ?」 恐る恐る尋ねてみる。 「まあね、ちょっと見てよこれ」 二つ目の質問には答えてないぞ。なんだ、俺には女性誌を見るような趣味はないんだが。俺はハルヒの脇から雑誌の写真を覗き込んだ。 「あ、触っちゃだめよ。指紋つけないで」 「なんだ、いつから潔癖症になったんだ」 「このモデルの後ろに写ってる車、トヨタの新型よね」 「あーん?こんな流線型の車見たことねえぞ。プロトタイプとかじゃねえの?」 「そりゃそうよ。まだ出てないもの」 ハルヒはそう言って雑誌の表紙を見せた。モデルの服装は前衛的といか超機能的というか、シンプルというかそっけないというかそんな服だった。最近の流行ってこんななのか。と、どうでもいいような感想を述べようとしたところ、ハルヒはそんなことはどうでもいいのよという感じで発行年月の数字を指差した。 「おい、なんだこりゃあ、十年後だぞ!」 「あーもう、指紋つけないでって言ってるのに」 「未来の雑誌なんてどこで手に入れたんだ」 「あたしに頼んで送ってもらったのよ」 なるほど、頭いいな。 「未来の情報はおいそれとはあげられないとか言ってたから、せめてファッション誌くらい見せなさいと手紙を書いたの」 「それでこのファッションデザインなのか。どうりで時代離れしてると思った」 まあそれくらいの情報なら問題ないだろう。 「それだけじゃないのよねえ」 ハルヒはまたさっきと同じニタニタ笑いを浮かべた。机の上には化粧品のパウダーっぽいやつ、虫眼鏡、なんだか分からない液体の入った小瓶があった。 「なんだそれ?」 「まあ見てなさい」 ハルヒは卓上ライトをつけて、雑誌の表紙を覗き込んでアイシャドウの粉をふり撒いていた。化粧用の小さなブラシっぽいやつ、虫眼鏡を見ながら粉を塗っていた。それから雑誌を持ち上げてふっと吹いた。 「ぶ……ぶえっくしょん!!は、鼻に、えーくしょい!!」 ひとりでなにやってんのお前。ずずっと鼻をかんだハルヒが見せたものは、表紙に浮かび上がった指紋だった。ハルヒは黒いシールみたいなやつを取り出し、透明の部分を指紋の上に貼ってゆっくりとはがした。ゼラチン紙とかいうらしい。 「どう?バッチリでしょ」 そういや長門もやってたな、あんときはエンピツの芯の粉だったか。 「ああ、エンピツの粉は白いモノについた指紋を取りたいときね」 「やけに詳しいなお前」 「当然でしょ、あたしが名探偵だったのを忘れたの?」 探偵バリに推理を聞かされたことはあったが、まさか鑑識をやるとは聞いてないぞ。 「キョン、あんたの指貸しなさい」 「お、俺がなにかの犯人みたいじゃないか」 「いいから見せなさい、はぁやくぅ」 ハルヒは俺の腕をむんずと掴んでガラスの板に押し付けた。 「古泉くん、有希、あんたたちも見せてくれるわよねぇ」 ハルヒがニコニコ顔で言うと、古泉は苦笑しつつ、付き合ってやるかとしぶしぶ承諾した。ハルヒを名探偵に仕立て上げたのはそもそもこいつなんだからな。長門はなにも言わずに指紋を取らせた。 「うーん、キョンじゃないわねぇ。有希でもない。どう見てもあたしの指紋しか、ああーっ!!」 熱心にルーペを覗き込んでいたかと思うと奇声を上げた。 「どうした!?」 「古泉くんの指紋発見!!」 「え……」 別に驚くようなことじゃないんじゃないか?古泉が読んでたのかもしれんだろ。 「問題はそこでしょ。古泉くんがなぜ女性誌なんか手にしたのか」 「し、知りません。僕にはまったく心当たりありません」 当たり前だろ。なに焦ってんだ、返って怪しいぞ。 「古泉くんの指紋、右の親指ねこれは。切り傷があるわ、かなり深い。予言するわ、古泉くんは十年以内に親指に怪我をする」 それは予言じゃなくて指紋検出の結果を述べただけだが。古泉はまじまじと自分の親指を眺めた。そんな十年先の指の具合なんて今から心配してもはじまらんだろうに。 「そういうわけだから、親指には注意してね古泉くん」 「ご忠告ありがとうございます」 古泉はまた苦笑を浮かべた。こいつが親指をザックリ切っちまうのは、まだ先の話だ。 ハルヒがなにごとか思い立ったように出て行った隙に、古泉が耳打ちした。 「もしも僕が怪我をしなかったら、どうなるでしょうね」 「それくらいの未来は変わっても問題なさそうだが」 「もしもこれが既定事項なら?どんな些細なことでも変更すると大変なことになります」 ハルヒと入れ違いに朝比奈さんがやってきた。 「ごめんなさーい、遅れちゃって」 「朝比奈さん、ちょうどいいところへ。これを見てください」 俺はハルヒの机の上にある雑誌を指差した。 「これファッション誌ですよね。ふつうに本屋にある。わたしもときどき読んでますよ」 「ええ。十年後の発行ですけど」 「あらあら、まあ。どうしたんですかこれ」 「未来から送ってきたらしいんです」 「涼宮さんにも困ったものね。いくら雑誌でも未来の情報には変わりないのに……へー、こんなの流行ってるのね」 朝比奈さんがパラパラとめくりはじめた。そこで立ち読みしないでくださいよ。 「それにしても、なんで僕が女性誌なんか持ってたんでしょうかね」 古泉がいつまでも首をかしげていた。ドアが開いてハルヒが戻ってきた。 「あら、みくるちゃん来てたのね」 「おはようございます、遅れちゃってごめんなさい」 「それより見て見て、未来の雑誌よ。流行の最先端の百歩くらい先を行ってるわ」 先を行き過ぎて道を踏み外しそうだがな。 「見ました。こんな服、わたしも欲しいなぁ」 「タイムマシンが完成したらみんなで買い物に行きましょう」 「あ、いいですねぇそれ」 素直に賛同してみせている朝比奈さんが冷や汗を垂らしていることは、俺にはお見通しだ。 ハルヒがジャラジャラと音がする布袋を置いた。小銭の音か? 「なんだそれ、小銭の貯金か」 「銀行に行って五万円を五百円玉に両替してもらったのよ」 「な、なんでそんな大量に」 「未来に買い物リストとお金を送って買ってきてもらうのよ」 「なんで五百円玉なんだ。お札でいいじゃないか」 「バカね、十年も先ならお札のデザイン変わってるかもしれないじゃないの。こういうときはデザインの寿命が長い補助貨幣のほうがいいのよ」 なるほどな。って五万円分は重いだろう。 「まあまあいいから。あんたたちも買って欲しいものがあったら五百円玉よこしなさい」 俺は、と考えてはみたが別に欲しいものなんてなかった。ほんとに欲しけりゃ朝比奈さんに頼めばいい。 「なあ、思ったんだが、別に現金でなくてもいいんじゃないか?」 「どういうことよ」 「十年先くらいなら銀行に預金して通帳かカードを送ればいいだろ」 「あ……」 さすがにそこまでは頭が回らなかったか。突っ込みどころが的を得ていたらしく、ハルヒは顔を赤くして重たい袋をえっちらおっちら背負って出て行った。また銀行に行ったらしい。 「たっだいまぁ!」 「おう、おかえり。通帳にしたのか」 「普通預金はやめたわ。銀行の人が十年動かさないなら長期国債がいいっていうからそれにしたわ。これもひとつの投資よ」 猫型ロボットの漫画でそういうネタがなかったか。 「買い物頼むだけじゃなかったのか」 「あたしへの投資よ。利子の分はあたしのお小遣いよ、キヒヒヒ」 俺はハルヒが持ち帰ったパンフレットを読んだ。年率にして0.85パーセントくらいか。ハルヒがタイムトラベルを使った財テクに走り始めたな。よくない傾向だ。俺はこっそり朝比奈さんに尋ねた。 「これまずいですよね」 「いいんじゃないかしら?銀行の定期預金に十年眠らせておくのとあまり変わらないでしょう」 「それはそうですが。金儲けのためにタイムトラベルを使うのは問題がある気が」 「まあ会社は金儲けのためにあるわけだし、それにまだ時間移動管理の組織が生まれるまではいいんじゃないかしら」 未来人の朝比奈さんがそうおっしゃるならいいんですが。 「わたしは知らなかったことにしますね」 朝比奈さんは人差し指を立ててウィンクしてみせた。そ、そんな。なんだか犯罪の共犯っぽいことをしてるようで俺は不安になった。今に未来警察とかがやってきてガサ入れされるんじゃないだろうか。 「うーん、株を買うのもいいかもねぇ」 ハルヒのブツブツいう声が聞こえて俺は朝比奈さんを見た。朝比奈さんは困ったような顔をして笑っていた。 ハルヒはまだ虫眼鏡で雑誌を調べている。 「まだやってんのか。なにか分かったか」 「ふふっ。あたしはあたしの経営者としての能力を甘くみてたようね」 なんか微妙に矛盾してないかそれ。 「こういうファッション誌は四半期くらいで流行ネタが変わるから、このデザインをまねして売れば儲かるわよ。パリコレを先取りできるわ」 「なんという盗作」 「人聞き悪いわね。まねをすることは最高のお世辞なのよ」 まあ服飾業界の流行ってのは、誰かがはじめてみながそれをまねして広がっていく感じだろうけど。 「ちょっと生地を買いに洋裁店に行ってくるわ。有希も一緒に来て」 副社長にして我が社のコスプレイヤーはいそいそとハルヒについていった。次はどんな衣装になるのか楽しみである。 「おはようございます」 「朝比奈さん、どうしたんですその格好は」 「これがどうかしたかしら?」 「だって昨日までOLっぽい服装だったでしょう」 それまで新聞を広げて読んでいた俺は、古泉と朝比奈さんのやり取りに目を上げた。そこには流行を二十年くらい先取りしそうな、フィギュアスケートとゴスロリを合体させたようなきわどい格好の朝比奈さんがいた。 「朝比奈さんはもうコスプレしないんじゃなかったですか」 長門のコスプレがあんまり似合うんで考え直したのか。 「これはコスプレじゃありません、時間常駐員の制服ですよ。昨日もこの格好だったじゃないですか」 朝比奈さんが怒ったように言った。 「え、いつからそんな」 「いつからって、わたしが十五歳のとき常駐員になってからずっとですよ」 いつもと違う朝比奈さんに妙な違和感を覚えて、俺は禁則中の禁則を破る質問をしてみた。 「ちなみに今は何歳なんですか?」 「今年で二十五よ」 俺とその他二人は顔を見合わせた。朝比奈さんの年齢って確か禁則事項だったんじゃないですか。 「そんなことはないわ。二二九二年三月九日生まれの二十五歳。ほら、ね」 図らずも急に解禁になった鮎漁を知った釣り人でもここまで驚いたりしないくらいに、正直、俺は驚いた。朝比奈さんの歳は俺にとっちゃ鉄の壁だったのに。 ちょうどそのとき、ドアが開いてハルヒが出社した。 「おっはよ。有希、新しいドレスできたわよ」 打ち合わせで遅れるとか言ってなかったかこいつは。 「いいじゃないの、これが新しい事業展開になるかもしれないんだし」 ハルヒがトートバックから取り出した長門の新しい衣装は、漆黒のワンピースに白の派手なフリルを飾りつけたものだった。 「……」 「これ、あたしが苦労して縫ったのよ」 見るからに未来の雑誌からパクったもんだが、これは萌えるに違いない。アニメのキャラクタが着そうなド派手で誇張されたデザインだった。 「あれれ、みくるちゃん。その衣装どうしたの?似てるわね」 ハルヒが長門のために縫製したというドレスに非常によく似ている。スカートの丈が短くなっただけで、そこは進化したと表現するべきか。え……、進化? ハルヒは早速長門に着せて、朝比奈さんと並べてみた。 「二人とも似合うわ。アニメキャラの姉妹みたいね」 「確かに。長門さんはボリュームのある衣装が、朝比奈さんは露出度の高い衣装が似合いますね」 「露出度って……あんまりはっきり言わないで」 朝比奈さんが裾を押さえて顔を赤くしていた。もう古泉も遠慮なしだな。 このとき、なにかがおかしいということに俺たちは気がついていなかった。 次の日のことだ。 「あ、朝比奈さん、その髪いったいどうしちゃったんですか!?」 あの美しい、少しだけカールした長い髪がバッサリと短くなってしまっている。もしかして失恋でもしたんですか。 「やだキョンくんったら。わたしは元々この髪型でしょ」 朝比奈さんが苦笑した。俺は口を開いて、もっと長かったでしょうと言おうとして、「も」のところでやめた。これはまずい。平安京でうぐいすが鳴かない規模の歴史を書き換える事態が起こっている。古泉と長門の表情を見ると、同じ危険信号が浮かんでいた。頭に回転灯を乗せたら黄色いやつがピコピコ回りそうだ。これはいったい何が起こっているんだ。 「朝比奈さん、その髪型が短くなった経緯を教えていただけませんか」 「ええっと、時間常駐員はみんな短めなんです。長い人は束ねるか、結うかしないといけないの」 「その規則が出来たのはいつなんです?」 「わたしがこの仕事に就いたときにはこうでした。生まれるずっと前のことだと思うわ」 「敢えてお聞きしますが、この会社は未来ではどうなるんです?」 「時間移動技術を管理していますよ。一社独占で涼宮さんが初代社長です。わたしはそこの社員です」 この言葉が朝比奈さんの口から出てくるとは。俺たちが知る朝比奈さんと一致しない。 「もっと早く気がつくべきでした……」 古泉が思案げに言った。 「どういうことなんだ?俺にも分かるように説明してくれ」 「……因果律が歪んでいる」 「僕たちが知っている朝比奈さんから、様子が少しずつ変化しています。つまり歴史が書き換わっていると」 それってハルヒのタイムカプセルのせいなのか。 「……それはまだ不明」 「原因を突き止めないといけませんね。朝比奈さんはこの時間平面に泊まっていないんですか?」 「ええと、夜は未来に帰って日報を出して、次の日の朝また時間移動でここに来ています。時差ボケにならないように」 「ということは帰った後の朝比奈さんが時間の歪みの影響を受けているということになりますね」 「なにか変なことありました?」 「ええ。いろいろと、僕たちが知っている朝比奈さんとはだいぶ変化しているように見受けられます」 朝比奈さんの赤道上にはクエスチョンマークの衛星がいくつも回っているようだった。時間の歪みの渦の中にいる本人が知るはずもあるまい。 「みんなぁ、おっはよ!」 全員がそっちを見た。ドアを開けて満面の笑顔で入ってきたハルヒの髪は、バッサリと短く切られた上に、目も覚めるようなオレンジ色に染め上げられていた。 「ハルヒ、何があったんだ。その髪どうしちまったんだ!?」 「なによ、雑誌に載ってたヘアスタイルにしてみただけよ」 美的レベルAランク以上の女三人がそろってショートカットになるという、前代未聞のハプニングを見たわけだが、俺と古泉は三人を見比べながら、これはこれで趣があっていいななどと呑気に感想を述べ合っていた。 「おはようございます」 「あらキョンくん、おはよう」 翌朝、珍しく朝比奈さんが一番に出社していた。メガネをかけてパソコンの雑誌を読んでいる。ハイヒールを脱いでこともあろうに俺の椅子の上に足を乗せていた。もしかしてこれもコスプレの一種なのだろうか、細い銀縁のメガネをかけたちょっとインテリっぽい朝比奈さんは萌えた。 「キョンくん、お茶お願い」 「え、は、はいはい」 もしかして今日はすごく機嫌悪いのかもしれないと、俺は給湯室でお茶を入れて朝比奈さんに差し出した。 「お、お口にあいますかしら……」 なんで俺が朝比奈さんの口調をまねしてるんだ。 「ありがとう。うん、よく煎れてあるわ」 ホッ。よかった。突然、ぬるい!とか叫んで湯飲みを放り投げられたらどうしようかと。 朝比奈さんは読んでいた今日発売の雑誌をぽいとくずかごに放り込み、パソコンのモニタに向かってタッチタイプでカタカタとなにかを入力していた。未来にはこんな古い技術のネットワーク機器は存在しなくて、いまいち使い方も分からないとか言ってませんでしたっけ。 「おは……」 「おは、」 「……」 長門に勝るとも劣らぬ超タイピングスピードでキーボードを叩く朝比奈さんを目にして、ハルヒも古泉も、それから長門も、ドアを開けるなり言葉を失っていた。いったい何事が起こったのかと俺に尋ねる視線をくれるが、肩をすくめるか首をかしげてみせるしかなかった。 全員が呆然と朝比奈さんを見つめるなか、まあそういう日よりなのだろうと各々の机で自分の仕事に目を戻した頃、部屋にうっすらと煙が漂い始めてそっちを見た。俺は我が目を疑った。こともあろうに朝比奈さんがくわえタバコでキーボードを叩いている。 あれ、ここ違うわ、これじゃ効率悪いわね、などとブツブツ呟いていた朝比奈さんが、灰皿がわりの空き缶にタバコを押し付けてから長門に言った。 「長門さん、バグ直しといたわ」 ええっ。今なんとおっしゃいました。 「……そんなはずはない」 「いえ、ここの入力のところね、引数の型にひとつだけ例外があるのよ」 「……むぅ」 「あらごめんなさい、余計だったかしら?」 「……あなたは正しい。修正に感謝する」 「ほかのソースも見ておくわ。余裕あったらリファクタリングもしといてあげる」 いったい何が起こったのであろうか。文系の俺のために自ら説明すると、リファクタリングというのはすでに動いているプログラムのソースコードを修正して、見た目の動作はそのままにパフォーマンスを上げたり最適化したりする手法を言う。つまり一度誰かが書いたプログラムを再設計して、もっと効率を上げようというとてつもなくめんどくさい作業なのだ。最初に書いた人も、自分が書いたソースコードを勝手にいじりまわされるのは感情的に嫌らしい。 ともあれ、問題は朝比奈さんが今までやったことがないようなことを平気でこなしていることである。 「朝比奈さんってプログラマだったんですか?」 「あら失敬ね。わたしはこれが本業じゃない。ソフトウェア開発技術者の資格も持ってるわ」 斜に構えた朝比奈さんは、いつもと違って新鮮だ。ってそういう問題じゃない。 「知らなかった。いつからそうなんです?」 「あれ?だって専攻で情報工学を勧めてくれたのキョンくんじゃない」 「そうでしたっけ?」 これはなんだかおかしいぞ。そんな歴史、どう考えてもありえん。 「朝比奈さ~ん、ケーキお持ちしました!」 開発部の連中が近所で買ってきたらしい箱入りケーキを朝比奈さんにうやうやしく献上した。 「あらありがとう。気が利くのね」 「いえいえ、朝比奈さんのためならたとえ火の中水の中」 お前らいつから朝比奈さんの親衛隊になっちまったんだ、長門はどうした長門は。と、長門のほうを見ると、うさぎに畑を荒らされて頭を抱える農民のようなありさまで机に突っ伏していた。 俺は緊急会議を開いた。 「朝比奈さん、たいへん申し上げにくいんですが、どうやら歴史がかなりの部分で歪んでいるようです」 「あら、それはどういう意味かしら?」 眉毛をピクリと持ち上げる朝比奈さんに、どういうと問い詰められて俺が言葉に詰まっていると古泉が助け舟を出した。 「まだTPDDは持っていますか?」 「TPDDってなにかしら」 あれれ、TPDDのない朝比奈さんってただの人じゃないですか。あ、今のは言い過ぎました。 「僕たちの知っている歴史では、朝比奈さんは未来から来た時間調査員のはずなんです」 「またそんな冗談を。古泉くんらしくないわ」 一笑に付す朝比奈さんだった。 「僕は至極まじめです。いいですか、このままですと朝比奈さんの存在そのものが危うくなってしまいます」 古泉の気迫に押されたのか、朝比奈さんは笑うのをやめた。 「ええっと、TPDDって何の略かしら」 「確かタイムプレーンデストロイドデバイス、だったと聞いています」 「タイムトンネル、なら知ってるけど」 「それは時間移動するためのものですよね?」 「ええ。未来では電車みたいにあちこちにターミナルがあって、そこから乗るの。でもわたしは調査員なんかじゃなくて、プログラマの仕事に来ただけよ」 「妙な具合になってますね」 「どういうことかしら?」 「朝比奈さんの記憶が大部分において変わってしまっている、ということです」 「なぜそんなことに?」 「たぶん涼宮さんのタイムマシンのせいではないかと」 古泉は同意を求めるように長門を見た。 「……そう。未来からの情報が漏洩したため、この時間軸の延長線上にある新しい過去が交錯している」 「長門さんまで。みんな、本気なのね」 「……涼宮ハルヒのワームホールが、未来におけるTPDDの開発を阻害している」 「ってことはワームホールが時間移動技術の代表格みたいになっちまうのか」 「……そう。STC理論のような技術理論は廃れてしまう未来になる」 困ったな。ハルヒが会議室の壁に穴を開けちまったときやばい予感はしていたんだが。 「しかし、今になってハルヒにやめろと言うとまた神人が暴れだすぞ」 長門は一言だけゆっくりと噛んで含めるように呟いた。 「……わたしが、守る」 「守るって、どうやるんだ?」 「……ワームホールを閉じる」 「閉じてもたぶん、涼宮さんは何度もワームホールを作るでしょう」 「そうだな。あいつがあきらめることはまずない」 「……ワームホールを二重化する」 「つまり?」 「……一旦向こう側に届いた物質は、即時に別のワームホールを通って戻ってくる」 「郵便があて先不明で戻ってくるアレか」 「……そう。……?」 俺の例えが微妙にズレていたようで、長門は首をかしげていたが。 「朝比奈さんにTPDDがないとすれば、どうやって未来へ行けますか」 「あら、タイムトンネルのターミナルはこのビルの屋上にもあるわ。わたしがパスを持っているから入れるわよ」 「そ、そうだったんですか。いつの間にそんなものが」 「パスがないと入り口が開かないようになってるの。過去から侵入されると困るらしいから」 なるほど、そのへんは用心しているわけだ。 「じゃあこうしよう。長門と朝比奈さんが未来へ行ってワームホールを閉じる。俺と古泉がワームホールに手紙を入れて確かめる」 「……分かった」 「その場合、時間移動技術の歴史上でワームホールの利用が終わってしまいますが、お二人は無事戻ってこれるんですか?」 「……問題ない。この流れが修正されれば、TPDDが戻るはず」 長門がOKを出したので俺たちはさっそく穴の封鎖に取り掛かることにした。長門と朝比奈さんを見送るために屋上まで行った。 ビルの屋上はガランとしてなにもなく、乾いた冷たい風が流れているだけだった。朝比奈さんがブレスレットをはめた左腕を空中にかざすと、丸いシャッターのような円盤が現れて真っ暗な穴がぽっかりと開いた。覗き込むとはるか下のほうに青白い光が渦巻いている。俺と古泉は底なしの穴に足がすくんで、うわと声を上げた。 「タイムトンネルよ。行き先を入力したからそのまま飛び込めばいいわ」 「えらく簡単なんですね。この技術が消えてしまうのはちょっともったいない気がしますが」 俺はいまさらなにを言ってるんだという目で古泉を見て、二人をせかした。 「朝比奈さん、じゃあよろしくお願いします」 「分かったわ」 「時計を合わせましょう。今から五分くらいしてからワームホールを閉じてください。長門、後を頼む」 「……分かった」 二人が穴の中へ飛び込むと、シャッターを切るように入り口は閉じた。その空間を手で触っても、もうなにもなかった。 「俺も行けばよかったかな」 「同感です。もったいないことをしましたね」 まあしょうがない。誰かが残って確かめないことには。 俺と古泉は会議室に戻った。 「ハルヒ、個人的にタイムカプセルの実験をしてみたいんだが」 「もう、あたしは洋服のデザインで忙しいのに」 計画どおり大理石を埋め込み、パテで隙間を詰めた。なんとかごまかしてハルヒにかしわ手を打たせ、部屋の外に追い出した。今ごろ向こうでは長門と朝比奈さんが、この同じ空間でワームホールを閉じているに違いない。どうだろう、ちゃんとうまくいっただろうか。 それから五分くらいして、白く光る人の形をした影が現れ、長門と朝比奈さんが戻ってきた。いつもの服装に戻っているところを見ると、どうやらTPDDは戻ったらしい。 「ただいまキョンくん、わたしなにかいろいろ変なこと言ってたそうね」 「いえいえ、たまにはああいうのもいいんじゃないでしょうか。新鮮でよかったですよ」 などと言いながら、もうあんな朝比奈さんは二度とごめんだという表情を隠し切れない俺だった。 「実は未来で長門さんに会ったの。わたしたちを待っていたみたい」 「なにか言ってましたか」 「……」 長門は俺の顔を見つめ、なにか言いたいことがありそうなのに言葉にならないような、複雑な表情をして口を開けてはやめ、口をパクパクしてなにかを言おうとしている。それ、禁則事項? 「長門、どうしたんだ?未来でなにかあったのか」 長門はいきなり走り寄り、飛び上がって俺に抱きついた。細い腕を背中に回してきつく抱きしめてきた。 「きゃっ、長門さんったら」 朝比奈さんが信じられないという様子で口に手を当てている。 「これはこれは、お熱いですね」 古泉がカメラを取り出して写真に収めようとしたのだが、朝比奈さんに睨まれてやめた。 「な、長門、み……みんなが見てるって」 かつてないほどの激しい長門の衝動に俺は戸惑って、顔が真っ赤になるのを感じた。でも、こういうところを長門が見せるのは嬉しかった。長門は俺の肩に顔を埋めてピクリとも動かない。俺はそのまま長門の体を抱えて、会議室のドアを背中で押して外に出た。その間にも長門は離れようとはしなかった。 ハルヒがぽかんとした表情で俺たちを見ていた。俺と目が合うと、顔を真っ赤にして、 「あ、あたしタバコ買ってくる。あたし吸わないんだったわ。じゃあハッカパイプとかシガレットチョコとかキセル乗車とか……」 意味不明なセリフをつぶやいて出て行った。 俺は長門が落ち着くまでじっと抱いていた。ほんのりとリンスの香りがする薄紫色の髪をなでた。未来でなにを見たんだろう。もしかして、俺が死んでたとか。 「なにを見たのか、話してくれ」 「……自分の、未来」 七年前、長門は自分で選択して異時間同位体との情報リンクを断った。それが久しぶりに未来を見たということなのだろう。 「なにを見たんだ?」 「……あなたと、わたし」 なるほどな。未来の俺が死にでもしたらたぶん、長門は今ごろ暴走している。この長門の反応は、俺が描いている二人の未来に近かったんだろう。俺は長門の耳元でささやいた。 「じゃあその未来は、俺には内緒にしといてくれ」 俺は俺で、自分の未来を作る。 「……分かった」 俺は唇で長門の頬に軽く触れた。どうやら感電はしなかった。 会議室のドアを開けると朝比奈さんと目がかち合った。俺も朝比奈さんも顔が真っ赤になった。 「あ……朝比奈さん」 「あ、あの、ごめんなさい、別に立ち聞きしてたわけじゃなくて……」 「すいません。長門が未来の俺たちを見て感激したらしくて」 「わたしも見ました。ちょっとうらやましかったですよ」 なにを見たのか気になるところだが、知らないほうがいいだろう。 「それで、わたしたちは涼宮さんに遭遇してしまったんです」 「見られたんですか」 「ええ。ちょうどタイムカプセルを開けようとしたところを見つかっちゃいまして」 「ありゃ。それで、うまくごまかせましたか」 「いいえ。向こうの涼宮さんはわたしたちがやっていることを既に知っていたみたいです。因果律が壊れ始めていることを伝えると、分かってくれました」 「ハルヒにしては物分りがいいですね」 「ええ。もうタイムカプセルを使って対話するのは中止することになりました」 「それはよかった。ハルヒも多少は成長したみたいですね」 「それから、これを言付かりました」 朝比奈さんは例のメモリカードを差し出した。 「未来の涼宮さんからの、最後のメッセージです」 俺は一度内容を確認したほうがいいかとも思ったが、いちおう私信なのでハルヒの机の上に置いておいた。 「返事が来たわよ!」 ハッカパイプを吸い込みながら戻ってきたハルヒが素っ頓狂な声を上げた。 「みんな、再生するわよ。はやく見に来なさい」 これを待ちあぐねていた四人がハルヒのパソコンの前に集まった。映像に映るハルヒは、いつもより少し落ち着いて見えた。 『あんたと話すのはこれが最後よ。実は社屋を引っ越すの。今度新しく研究施設を建てたの。SOS団時間移動技術研究所よ。ここのタイムカプセルは大家さんに見つかる前に埋め戻さないとね。ああ、別のタイムカプセルをまた作ろうなんて考えてもだめよ。未来の情報はタダじゃないの。あんたが自分で、苦労して手に入れるものよ』 未来の自分から説教めいたことを言われて、ハルヒは眉間にしわを寄せた。余計なお世話だと言いたいのだろう。 『でも安心しなさい、あんたがほんとに欲しがってたものはちゃんと手に入れたから。ねっ』 画面の中のハルヒは、カメラのこちら側にいるらしき誰かに向かって親指を立て、ウインクした。映像を見ていたハルヒの顔がぱっと輝いた。 「よかった。やっと手に入れたのね」久しぶりに見るハルヒの笑顔だった。 『ほら、恥ずかしがってないであんたも映りなさいよ。過去のあたしに見せてやりたいの』 そこからの映像は途切れて砂の嵐になっていた。ハルヒが画面をガンガンと叩いた。 「もう!いいとこなのに。どうなってんの、このパソコン」 「おい、そんなに叩くと液晶が割れるぞ」 「キョン、なんとかしなさい。続きを見たいのに」 ハルヒは夕方五時アニメの続きが待ちきれない子供のように俺をせかした。ファイルを開こうとするが、読み込みエラーが表示されるだけだった。どうやらメモリカードそのものが壊れているようだ。俺はなんとかならないだろうかと長門を見たが、そっぽを向いて我関せずを決め込んだ。あの映像の続きには、なにか見てはいけないものがあったらしい。 朝比奈さんにも聞いてみた。 「映像の続きは見ました?」 「いいえ。メモリカードを受け取っただけで」 「カメラのこっちにいたの、誰なんです?」 「分かりません。あらかじめ用意してあったみたいなの」 結局、ハルヒが欲しがってたものがなんだったのか、ハルヒ以外の誰にも分からずじまいだった。 「キョンくん、ひとつ忘れていました。メモリカードの中に時間移動基礎理論の論文が入っているはずなんです」 その後、メモリカードはどこへということもなく消えた。ロッカーにしまっておいたはずなのだが、なくしたのか誰かが持っていったのかは分からない。俺が覚えている限りでは、さらに過去へとタイムトラベルしたのだろう。あれがいつ誰を経由してハカセくんの元に戻ってくるかは分からないが、今現在はとりあえず必要ないんだと思う。 エピローグへ